「阿梅だ。後はお(かた)に頼む。まだ十二歳だ」

まるで幼い妹の子守りから解放される、遊びたい盛りの兄のように慌ただしい。

「お方だ。何でも相談いたせ」

重綱さまはわたくしに阿梅を引き合わせて、早々に逃げるように立ち去って行った。向き合った阿梅の、ほむら立つような双眸の力強さに、わたくしは圧倒されていた。落人のみじめさや卑屈さは微塵もない。かと言って高慢というのでもない。阿梅はただ素直にあるがままの姿で、わたくしの前に膝をついているだけのようであった。

「阿梅さん、動いている荷車で、何かお仕事をしてましたか?」

阿梅は目を見張ってわたくしをじっと見つめてうなずいた。

「車には手傷を負うて歩けない者がおりました。水など入り用になったときはわたくしが運びました」

「お見事でした。動いている荷車に飛び乗ったり飛び降りたり、男でもなかなか難しいことです」

阿梅は恥じらうように頬を染めてうつむいた。

「それにしても、ようございましたなあ」

城の陥落と同時に城門から、大勢の人々がどっとあふれ出てくる光景を思い描く。一刻も早くこの場から逃れ出て、巷に紛れ込みたいお武家もいただろう。みな我勝ちにと先を争うて逃げ出てくるなかで、女の子は、それでも無事に保護されたのだ。運がよかったとしか言いようがない。

揉みくちゃにされながら城から逃げおおせても、それを待ち構えている人買いや女衒がうようよいるのだという。力ずくでさらわれることもあるし、甘言を弄して連れ去られることもあると聞く。大名や武将の娘たちでも、衣服をはぎ取られ、女衒に売り飛ばされることは珍しくもない。美しい衣装はそれだけでも大層なお金になるらしいのだ。重綱さまに見つけてもらってほんとうに運がよかった。

わたくしはわがことのように安堵していた。阿梅のために、嫁入りに持ってきた小袖の中から何か探してみよう。おこうに相談して縫い直してもらおう。

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