第一章 阿梅という少女

(げん)()元(一六一五)年の夏が終わった。

「お方さま、まだ遠うござりすが、片倉(かたくら)勢が、若さまが、帰ってまいりましたぞ」

「……ああ、ほんとうに。なんと美しい……」

「勝ち戦というものは、何もかもが輝いて見えるものでござりすなあ」

感極まって叫ぶ者がいる。かたわらに控える侍女のおこうがささやいた。

「お方さま、若さまの馬印が見えまする」

わたくしは心を揺さぶられ、胸がいっぱいになっていた。そっと涙をおさえながら、戦の間留守を守った家士や娘の()()と共に、城を目指すお行列を見守った。黒漆が艶やかな美しい軍装の長い長い列がつづいてくる。白地に黒の梵鐘(ぼんしょう)の馬印、家紋を染めた無数の(はた)指物(さしもの)が風にゆれ、土煙と共に進んでくる。馬のひづめの音、牛がひく荷車のわだちの響きまでもが感じられる。

片倉(かたくら)小十郎(こじゅうろう)重綱(しげつな)さまの軍勢が白石(しろいし)(じょう)に帰ってきた日、蔵王(ざおう)連峰や不忘山(ふぼうさん)には、早くも点描したような煙る紫色や黄金の影がさし始めていた。武器や兵糧などを積んだ荷車の列につづいて、四方に板を巡らせ幌がかけられた二台の車がつづく。初めて目にするとてつもなく大きな箱のような荷である。

「あれは、何じゃ? あの荷は?」

「貴重な戦利品を納めているのではなかろうか」

突然板壁から幌を押し上げて、ひょっこりと顔が現れた。

「ははあ、分かったぞ。怪我人を運ぶ工夫であろうよ」

城のお留守居が弾んだ声で断言した。傷病兵を連れ帰るために考えられた病室ではないか、と一同の声は一致した。