第一章 阿梅という少女

十三

江戸に行く準備が始まった。供をする侍女を誰にするかは、わたくしに任された。

「おらばお供に加えてけさい。お方さまのためにおらは何だってやりますから。お腰元がいたって裏方の仕事は、おらの方が役にたつからっしゃ」

おこうはお姑さまが亡くなられたことを知ってすぐに、江戸行きを決心していたと言った。重綱さまがあれこれ悩んだところで、とどのつまりは、わたくしが証人にならざるを得ないことを、おこうだけではなく誰もが承知していたのだろう。

「お方さまのいねえ城にいたっておもしゃぐもねえ(面白くもない)。おらの居場所はお方さまの傍と決めたのっしゃ」

「なんと心強い言葉であろう。おこう、頼りにしています」

わたくしはありがたくて目頭が熱くなった。この地にはもう一生戻ることがかなわぬかも知れぬが、侍女たちは交代することが許されるはずである。おこうも侍女たちも江戸屋敷で働く家士たちにも、交代できることを約束しよう。送り出す家族にも永の別れでないことを分かってもらいたい。重綱さまにも分かってもらわねばならぬ。

阿梅のようにわたくしも羽根を広げて、親鳥のようにみなを守らなければならないと思うのだ。

第二章 片倉小十郎重綱の使命

このところ力が湧かない。血のたぎることが何もない。鬼の小十郎重綱などと呼ばれたのが、わずか二年前とは思えぬのだ。遠い昔のような気がしてならぬ。

天下は定まった。ふと、木の枝にしがみついたまま透き通るように朽ちた空蝉、城のあちこちに仰のけに落ちて、細い手足でもがいている蝉が脳裏をよぎった。

空を眺めながら膝を抱え体を揺らして、何を考えるでもなく、取り留めもなくあれこれと想いにふけったが、それにも疲れてしまった。こんなことをしている暇はないのだ。だが何もする気力がない。

鬱々として気の晴れない日がつづいている。儂がはればれと生きていける時代は終わったような気がしてならぬ。親父どのはいい時代に生きた。最後の戦を見届けてさっさと彼岸に旅だって行ってしまわれた。

「その逆でございましょう。お義父さまは大変な時代を生き抜かれて、お殿さまにお仕事を引き継がれたのです。片倉家は、これからの時代にも生き残らなければなりませぬ」