第Ⅱ部 人間と社会における技術の役割

Ⅱ-4 技術と法

4. 消費生活用製品安全法と「パロマ瞬間湯沸器事故」

消費生活用製品安全法が2006年に改正されて、製品事故に対する情報の収集および提供が義務付けられました。「重大製品事故が生じたことを知ったときは、当該製品の名称・型式、事故の内容、製造した数量、販売した数量を内閣総理大臣に報告しなければならない」ことになりました。

この改正のきっかけとなったのが、パロマ工業社のガス瞬間湯沸器による事故です。この事故は安全装置の不正改造が原因で、1985年~2006年までの20年間に28件(死亡21名、重軽傷19名)もの一酸化炭素中毒事故が発生していたにもかかわらず、一切公表されていなかったものです。このことが明らかになるきっかけとなったのが、1996年3月に一人暮らしの21歳男性が死亡し、心不全だと説明された家族が10年後の2006年に死体検案書を確かめたところ、死因が一酸化炭素中毒であるとわかった事件です。

瞬間湯沸器の機能は、冷たい水を流路の途中で加熱して、温かいお湯を供給することです。そのためには、蛇口をひねって水が流れ出すとガスが点火することと、排気ファンが回って燃焼ガスを排気することができればよいのです。水が流れたかどうかを検出するセンサ、バーナーの火によって加熱され過ぎていないかをチェックするセンサ、排気管内の温度が高くなり過ぎていないかを検出するセンサが配置され、これらの信号を用いて適切に使用されるように回路を組みます。

ところが、制御回路が故障して、本来は制御盤を交換しなければならないときに制御盤の交換をせず、制御盤を接続するところを短絡(端子同士をつなげる)させてしまうと、制御盤を使わずにガスに点火できるようになっていました。ここで端子を短絡させてしまうと、水を流すとバーナーが点火され、その熱で電気が作られて電磁バルブを開け続けるので点火が続き、排気ファンが回らなくてもお湯を得ることができるようになります。

当時、冬の時期に制御盤のハンダ付けが不良になってよく制御盤の故障が起こり、パロマガス湯沸器の修理業者が制御盤の交換をせずできる修理として、端子の線の短絡を行っていたのです。これをすると停電でも、あるいは電源をつないでいなくても温水を得ることができます。その結果、排気ファンが回らない状態でバーナーの点火を続け、発生した一酸化炭素が室内に滞留して、一酸化炭素中毒を引き起こしたのです。

一酸化炭素はわずかな濃度でも肺に吸着して、呼吸困難を起こします。パロマはこのような修理を「不正改造」として、「不正改造」を行わないように修理会社に指示していたのですが、頻発する事故に対して有効な安全対策を取らず、社外にも公表していませんでした。

2010年5月11日、東京地裁において、パロマ工業製ガス湯沸器による一酸化炭素中毒事故の刑事責任を問う裁判で、パロマ元社長および元品質管理部長が業務上過失致死傷罪と判決されました。判決要旨には「本件を含む一連の事故の直接の原因は修理業者による不正改造だが、両被告人はそのことを理由に安全対策を回避するのではなく、何よりも使用者の生命の安全を優先し、ガス器具を社会に提供する企業の責任を踏まえた対応が求められていた」と記されています。

問題は、このような事故が頻発して、原因もわかっていたのに設計変更など有効な対策を取らず、一般にも公表していなかったことです。そこで、事故が起こったときにはその事実を内閣総理大臣に報告するように、消費生活用製品安全法が改正されました。そして、2009年に消費者庁が設置され、製品事故の報告情報がホームページに公開されるようになりました。

※本記事は、2019年4月刊行の書籍『人と技術の社会責任』(幻冬舎ルネッサンス新社)より一部を抜粋し、再編集したものです。