第Ⅱ部 人間と社会における技術の役割

Ⅱ-5 技術と科学

4. 研究の流れと研究不正

近年、研究不正の問題が大きく取り上げられます。どうして研究不正が起こるのかを考える前に、まずは研究がどのように進められるのかを見てみます。

① 目的(課題)の設定
これまでにまだわかっていないことの解明や、従来にない技術を生み出すなどの目的を設定します

② 研究方法の設定
その目的を達成するために、(a)理論的な分析、(b)観察・実験・測定、(c)設計・試作、(d)シミュレーション(計算)など、その研究者が得意とする手法や、用いることができる設備などを考慮して、研究方法を設定します

③ 研究の遂行
目的を達成するための研究を遂行します。実験であれば実験装置を製作したり、用意したりして実験計画を立て、実験を遂行します

④ 研究結果の分析:実験結果および測定結果の整理、データ処理
得られた実験結果を集計、分析します。実験結果をグラフや表に表したり、統計的な処理をして比較したりします

⑤ 研究結果の分析・考察
実験結果や計算結果を分析・考察し、その実験結果がどのようなことを意味しているかよく考え、新しい事実や有意義な結果を見つけていくとともに、次の実験計画などを立てていきます。実験→結果分析→実験→考察といった繰り返しを経て、目的とする成果に近づけていきます

⑥ まとめ:研究結果の意義、将来性、有用性
一連の結果がまとまり、成果が上がってきたと判断したら、遂行した結果をまとめ、学会の講演会で発表したり、研究論文を投稿したりします。これまで世界でどのような研究がなされて何がわかり、何がわかっていないか、それに対してこの研究では、どういうアプローチで何を明らかにしようとするのかという意義を緒言(イントロダクション)で明らかにした上で、研究の方法と結果を示し、考察を行い、この研究がどういうことを明らかにしたのか、その成果を説明します。

これが研究の大まかな流れです。研究方法としては理論的分析、実験、計算分析など、いろいろな手段を取ることができます。

近年、研究における不正として大きく次の三つが指摘されています。

① 捏造(ねつぞう):存在しないデータ、研究結果などを作成すること

② 改ざん:研究資料・機器・過程を変更する操作を行い、データ、研究活動によって得られた結果などを真正でないものに加工すること

③ 盗用:他の研究成果のアイデア、分析・解析方法、データ、研究結果、論文または用語を、当該研究者の了解もしくは適切な表示なく流用すること

ただし、研究不正を捉えるにあたって注意しておくべきことは、得られた研究結果が後になって誤りだとわかっても、それが当時の機器などを用いて正当な方法によって得られたものであるならば、それは「不正」ではありません。技術の発展で精度が増したり、新しい方法が生み出されて、新しいことが発見されたり、研究結果が変わったりすることもあるのです。そして、こういったことはむしろ、科学の発展にとって不可欠なものです。

5. シェーン事件から学ぶこと

研究不正事件の代表的な例の一つに、シェーン(Schoen)事件(Bell研事件とも呼ばれています)があります。これは、2000年から2001年にかけて、Bell研究所のシェーンが有機材料(分子性結晶)を用いて超電導を発見したというものに関わる事件です。

シェーンの発案は、有機物に金属膜を敷いてある程度の電位をかけておき、そこに水平方向に電位をかければ超電導が起こるというもので、その理論通りの実験結果が得られたと発表しました。ノーベル賞を複数回受賞しうるとも言われたのですが、後にすべて捏造だったことがわかりました。

村松秀著の「論文捏造」によれば、シェーン自身は自分がデータを捏造したとは考えておらず、学生時代から実験データを理論に合わせてプロットするという改ざんの習慣がついていたということです。この事件から私たちは、次のようなことを学ぶことができます。

大学の授業でやる学生実験は、すでに結果がわかっていることを実際に示して学ぶものですが、研究において行う実験は、最初から結果が決まっているものではありません。実験事実を率直に見ることが、研究者として最も基本的な資質です。

研究にはオリジナリティが求められます。当初はその研究者しかやっていないのが研究です。その当人がデータを捏造しても、誰にもわかりません。だからこそ、その研究の結果が間違いのない手順から得られたものかどうかをよく確かめなければなりません。

得てして、自分の思いこみで事実を見てしまいがちです。自分の思いこみで恣意的に結果を出していないかどうか、判断することはとても大切です。

このように説明してくると、まだ実験や卒業研究を体験していない学生の皆さんは、いきなり「実験結果は絶対だから、それに従わなければならない」といったことをレポートに書きます。しかし、実はまずちゃんとしたデータが取れているか、実験のやり方が間違っていなかったか、データの取り方が間違っていないか、処理を間違えていないかといったことをよく注意する必要があります。そして、研究の目的に向かって、よく考えながら粘り強く実験することが重要であることを強調したいと思います。

学生が卒業研究でやる実験でよく起こりがちなのが、次のような失敗です。最初に期待した結果が出ないと、「やっぱりダメだった」とすぐに結論を出してしまうことがよくあります。これではダメだと思いこんでしまう。

実は実験の仕方がまずかったり、実験条件が不十分だったりすることが多いのです。実験は何らかの目的(発案したことが合っているか確かめる、何らかの新しい技術を生み出すなど)を持ってやるものであり、その目的に向かって粘り強く実験することが大切です。

たとえ失敗に終わっても、その過程で得られた結果や最終結果から新たな種が生まれてくることがよくあります。それが成功に結びつくのです。

※本記事は、2019年4月刊行の書籍『人と技術の社会責任』(幻冬舎ルネッサンス新社)より一部を抜粋し、再編集したものです。