部 技術と社会の発展

技術がいかに社会を変えてきたかを振り返ります。技術が社会とどうつながり、社会に対して技術がどう影響してきたかを、歴史から考えます。

蒸気機関の発明によって人類は人工的な動力源を持つことができるようになり、工場における機械の稼働と結びついて産業が発展し、資本主義社会が確立しました。フォードの自動車生産のような大量生産方式が確立し、生産が飛躍的に発展しました。

工業の発展とともに資本主義は海外を植民地として、資源や労働力を求める帝国主義へと発展し、互いの対立が世界的な戦争を引き起こしました。この過程でその後の大きな負荷となる核兵器が生み出されました。戦後の大量生産の発展は公害問題から地球規模の環境汚染、地球温暖化問題へと広がりました。

戦後のコンピュータの進歩はインターネットの普及に発展し、情報通信技術の発展やAI(人工知能)と呼ばれるコンピュータプログラムの発展が世界を大きく変えようとしています。こうした技術の発展とそれにともなう社会の変化を捉えます。

技術は人間や社会の発展に活かされるとともに、大きな負荷も生み出しています。技術によって変わる社会のなかで、人間や社会は技術にどう向き合っていけばよいのかを考えるために、まずこれまでの流れを振り返ります。

[図表1]技術と社会の発展

- 1 蒸気機関と産業革命

1. ニューコメンの蒸気機関

まず蒸気機関の発明から取り上げます。ワットの蒸気機関の発明は、人間が人工的な動力を獲得し、それが産業の動力源となって工業社会を実現(産業革命)し、交通手段の革命へも発展し、大きく社会を変えたからです。

世界で最初の実用的な蒸気機関は、ニューコメンの蒸気機関です(1712年)。これは、鉱山における地下水を排出するための機械として開発されました。この背景には、イギリスにおける鉄鋼業の発展があります。

鉄を作るためには、鉄鉱石(酸化鉄)と木炭を混ぜて加熱します。木炭のなかの炭素が二酸化炭素に変わるときに酸化鉄の酸素を奪い、これによって酸化鉄が還元されて鉄が得られます。

この製鉄法の原理は今でも同じです。鉄鉱石と混ぜる木炭を作るために、イギリス国内の森林を伐採した結果、イギリスの丘はすべてハゲ山になってしまいました。

そこで木炭の代わりにコークスを用いるようになりました。このコークスを採るための鉱山が増えました。鉱山で地面の下を掘っていくと、大量の地下水が湧き出てきます。

この地下水を汲み出すためにポンプを使いますが、それまでは牛や馬を用いてこのポンプを動かしていました。牛や馬を使わずにポンプを動かす機械ができないかと考えて発明されたのがニューコメンの蒸気機関でした。

ニューコメンの蒸気機関を[図表2]に示します。現代人から見ると、とても不思議な考え方で作られています。

[図表2]ニューコメンの蒸気機関

シリンダのなかにあるピストンを上下動させてその動きをテコによりポンプの上下動に変えます。そのピストンを動かすのに、現代人ならシリンダのなかに蒸気を吹き込んで、その圧力でピストンを動かすと考えるでしょうが、ニューコメンの蒸気機関では逆です。

具体的には、いったんシリンダのなかに蒸気をため込み、そこに冷水を吹き込んで蒸気を水に凝縮させると、ピストンの反対側に働いている大気の圧力でピストンが押される(真空の力でピストンを吸引する)というものです。大気の圧力でピストンを押すので、この蒸気機関は「大気圧機関」と呼ばれています。

大気の圧力は約10N/cm2(1kgf/cm2)ですから、直径53cmのシリンダのニューコメン蒸気機関では、約2トンの力が発生します。たかが大気圧といっても、2トンの力を出せるのはすごいことです。

ニューコメンの蒸気機関は、1分間に5回のサイクルでピストンを上下動させました。ニューコメンの蒸気機関によって、鉱山における排水がとてもスムーズに行えるようになりました。

※本記事は、2019年4月刊行の書籍『人と技術の社会責任』(幻冬舎ルネッサンス新社)より一部を抜粋し、再編集したものです。