第Ⅱ部 人間と社会における技術の役割

Ⅱ-4 技術と法

5.  リコールが担う役割

自動車のリコールは、設計や製造段階における欠陥が自動車に発見された場合、道路運送車両法第63条の3に基づき、メーカーや輸入業者が国土交通大臣へ届け出て、該当する製品を無料で回収・修理する制度です。道路運送車両法第63条の3には、次のように記されています。

「自動車製作者等は、その製作し、又は輸入した同一の型式の一定の範囲の自動車の構造、装置又は性能が保安基準に適合しなくなるおそれがある状態又は適合していない状態にあり、かつ、その原因が設計又は製作の過程にあると認める場合において、当該自動車について、保安基準に適合しなくなるおそれをなくするため又は保安基準に適合させるために必要な改善措置を講じようとするときは、あらかじめ、国土交通大臣に次に掲げる事項を届け出なければならない」

リコールは小さな事故に気づき、その改善を通じて機械の安全性を高めるとともに、大事故を未然に防ぐ役割を担っていると考えることができます

ここで、ハインリッヒの法則について紹介しておきたいと思います。ハインリッヒはアメリカの損害保険会社の技術調査部の副部長で、ある工場で発生した労働災害5000件余を統計学的に調べて、『Industrial Accident Prevention: A ScientificApproach』という本を1931年に出版しました。その内容は図1に示すように、一つの「重症」以上の災害の背後には29の「軽症」を伴う災害があり、その背景には300のヒヤリとしたり、はっとしたりする「ヒヤリハット」(危うく大災害になる障害のない体験)が存在し、さらにその背景には数千件の不安定な状態や行動があるというものです。

写真を拡大 [図表] ハインリッヒの法則

この結果が活用されて、現在では小さな事故やトラブルに気づいた段階で、それが原因で大きな事故や災害にならないようにこまめに対策を取っていくことや、その活動を続けることが安全衛生管理の基本的な考え方になっています。この考え方を自動車の問題にあてはめれば、設計や製造における問題に気がついたらすぐに対処していくことで、大きな事故につながることを防ぐことになります。

リコールはこのように「ヒヤリハット」することや、「軽症」に気がついて「重症」になることを防ぐ働きをしていると捉えることができます。リコールをせずに隠し続けた結果、大事故に至った例が三菱トラックの事故です。

※本記事は、2019年4月刊行の書籍『人と技術の社会責任』(幻冬舎ルネッサンス新社)より一部を抜粋し、再編集したものです。