俺はいつもの俺に戻るように、沙優と距離を保つことにした。今日は仕事が終わったら一人で食事を済ませた。沙優には仕事だと言っておいた。

こんな時彼女と時間を過ごすのが普通だろうが、俺は彼女とは決まった日に決めたことしかしない。急に会ったり、食事をしたりなどはしない。それに基本俺は食事を一人で食べる主義だ。食事をしながら何を話せばいいのか分からない。

好きな女に愛を語ることも凄く苦手だ、というより愛を伝えたいと思ったことがない。たった一人だけ、俺の人生において、愛を伝えたいと思った女がいた。

高梨(たかなし)瑠美(るみ)。瑠美と出会ったのは五年前に遡る。酔っ払いに絡まれていたところを助けた。俺が二十五歳、瑠美は十九歳だった。肩を小刻みに震わせて、まるで捨てられた子犬のようだった。

目にいっぱいの涙を浮かべて「大丈夫か」と声をかけると俺に抱きついてきた、この時俺は瑠美に心惹かれた。すぐにでも俺だけのものにしたいという衝動に駆られた。

それから俺と瑠美の付き合いは始まった。瑠美が未成年ということもあり、デートは休みの昼間会うことにした。一緒にいると楽しい、俺は瑠美に一途な愛を捧げた。瑠美が二十歳を迎えたら、結婚したい旨を伝えた。しかし、瑠美から良い返事は貰えなかった。

「どうしてだ、理由を聞かせてくれ」

「貢のことは好きよ、でも結婚は二十五過ぎてからがいいの」

「何かやりたいことでもあるのか」

瑠美は少し考えて言葉を発した。

「とにかく二十五まで待って」

「わかった、そのかわり二十歳になったら一緒に暮らそう」

瑠美は「少し考えさせて」と俯いた。