第一章 雨の日の出会い

「私は西ノ宮沙優と申します。隣のアパートを追い出されて行くところなくて……」

「それでマンション入り口で雨宿りか」

「はい」

「俺は南條ホールディングス社長、南條貢だ」

南條ホールディングス社長、やっぱり住む世界が違うと思った。

「もう一晩泊めてやる。明日の朝、俺が仕事行く時一緒に出てくれ、いいな」

どうしよう、行くところない。

「あのう、ここに置いて頂けないでしょうか、何でもします」

「行くところないのか」

「はい」

彼は何かを企んでいる様子でニヤッと笑った。

「何でもするんだな」

私は背筋が寒くなるような思いがした。

「身体以外でしたら……」

「だから、俺は女に困ってねえ」

「良かった」

彼の口からとんでもない言葉が飛び出した。

「俺の婚約者の振りをしてくれ」

「えっ、婚約者の振り?」

私は驚いてしばらく固まった。

「あのう、どういうことでしょうか」

「俺には三年付き合っている彼女がいる、しかし結婚願望が全くない、俺もないから上手く行ってるんだが、会社役員に結婚を急かされている、だからカモフラージュだ」

「そういうことですか、彼女が結婚する気持ちになるまで婚約者の振りをすればいいんですね」

私はすっかり納得した。しかし、もしすぐに彼女が結婚する気持ちになったら、私は追い出されるのかな。早く仕事見つけて、アパート探さないと……

「どうかしたのか」

「いえ、早く仕事見つけてアパート探さないとな、って思って」

「いや、彼女は多分その気にはならないかもしれない、だからゆっくりで構わない。婚約者の振りの間はここにいて貰わなければ困るからな」

「分かりました」