第一章 雨の日の出会い

俺は南條(なんじょう)(みつぐ)、三十歳、南條ホールディングス社長である。

三年付き合っている彼女がいるが、彼女は全く結婚願望がない。まっ、俺も結婚には興味がない、しかし、会社役員の連中は、うるさいくらいに結婚を()かしてくる。

「社長、もうそろそろご結婚を考えて頂かないと、後継者のこともございます。いつまでも遊んでいると、取引先の信用問題に発展しかねません」

「俺は遊んでいるわけじゃない、結婚したいと思う女がいないだけだ」

「現在お付き合いしております女性とは、結婚なさらないんですか」

「そうだな」

俺は()()とは結婚するつもりはない。華菜とはもう三年の付き合いになる。彼女から言い寄られて、付き合いが始まった。

俺はいつも、自ら告白なるものをしたことがない。抱きしめたいと思ったり、気持ちが高揚したりすることもない。いつも言い寄られて、終わる。本当に私を好きなのか分からないとか、一緒にいても寂しいとか言われる。

確かに全て否定出来ない、俺が望んで付き合いが始まったわけじゃない。俺からは連絡は必要最低限しかしない。自分の気持ちを伝えたこともない。自然消滅がほとんどだ。

そんな女達と結婚してもすぐに離婚するのは目に見えている。ましてや、子供を育てるなどありえないことだ。

抱きたい、可愛い、気持ちが高揚するなど俺の中で味わったことがない感情だ。いや、正確に言えばたった一人、命をかけて愛した女性がいた。この女のためならなんでも出来るとさえ思った。二人の愛が終わるなど考えられなかった。

俺から愛を伝えた。一緒にいると気持ちが高揚し、心臓の鼓動の加速が止まらない。全く仕事が手につかず、他の男に取られまいとすぐにでも結婚をしたかった。

しかし、彼女は他の男を選んだ。俺の中で何かが弾けて粉々になって消えた。俺はそれから何も感じなくなった。女を可愛いと思うことや抱きたいと思う気持ちは消えた。

華菜とはしばらく会っていない。連絡もない、だから俺からも連絡はしない。そのことについて何も感じない。