「先輩が急いで部屋から連れ出して更衣室に連れて行ってくれたみたいなんですが、気がついたら……、洗面所で一人、ぼんやりしていました」

「一生懸命やっているのに、どうしろというんだろう、まじめなところがいいとほめてくれたくせに、まじめなだけが取り柄だと思っていたのに、それさえ否定された。そんな想いが言葉にならないまま、ぐるぐる頭の中を駆け巡って、洗面所の鏡の前で、あたし呆然としていたみたいなんです。

先輩が迎えに来てくれました。彼女が慰めてくれる言葉はほとんど耳に入らないまま、自分でも何を言っているのかわからないまま、口の中でもごもご言いながら上司に頭を下げました」

「先輩も上司も気まずかったと思うんですけど、そんなことにも気づかずに、それからただひたすら、みじめな気分で自分の中に閉じこもっていました。会社に行くのが嫌で嫌で仕方なくなって、憂鬱で、些細なことに腹が立ち、心の中で人の非難ばかりしていました」

「自分がいけないのに……ね、わたしはこんないけない子なんです。でしょ? 自分のせいなのに。自分が失敗したくせに、慰めてもらっているのに、人のことを非難なんかして。仕事に身が入らなくなって、周りの人もあきれていたんじゃないかしら。先生もしょうがない奴だと思うでしょ? わたしもわたしにうんざりしてしまいました」

誰でも新人時代の失敗は冷や汗をかくものだ。わけもなく焦ったり、言い訳をしたくなったり、謝ったり……。ただでさえ衝撃を受けやすい状況で、彼女はそれまでしがみついていた自分の立場、居場所を否定されたような気になって、いっぺんに心が折れてしまったのだ。

誰がそれを非難できようか。誰が彼女をひ弱だとか、もっと図々しくならないとなどと言えようか。