また感情は消え失せ、棒読みのような語りに戻っていった。

「計算違いや書き間違い、書類の取り違え、そんなちょっとしたミスが続き、周りからは『大丈夫?』と言われ、自分ではただただ焦りが募っていたその頃、メーカーへの取材に同行することになりました。その取材先の方は気難しい方で、今まで数回アポイントがキャンセルされたり変更されたりしていたそうで、みんなそこに行くのは気が進まない様子でした。

それでわたしに声がかかったのですが、今回も先輩が、キャンセルかもしれない、前日にでも確認しておかなきゃとぼやいていたんです。それでわたし、こういうときこそわたしが確認しなきゃと思い、前日に先方にお電話したんです。そうしたら、先輩がすでに電話したあとだったらしく、先方が、何度確認すれば気が済むんだと怒ってしまい、次の日の取材予定を断わられてしまいました」

彼女はそのときのことを思い出したのかいったん言葉を切り、一度息を深く吸ってから話を続けた。

「わたしは電話を置いたあと、どうしていいかわからなくなり、しどろもどろに先輩に説明したんですが、ええっ! と驚かれて、あとはもう頭の中が真っ白で、何も言えずに突っ立っていました。先輩は、そういうときはちゃんと断わってくれないと、とか仕方ないなあ、とか言っていたんだと思います。ただわたしの様子が変なので、みんなも少し慌てて、今度から気をつけよう、とかこういう失敗をして仕事を覚えるんだみたいなことを口々に言ってくれていたようでした。

でもわたしは身じろぎせず、生返事をするばかりでした。見かねた上司が軽い調子で、『君はまじめすぎるから少し余裕を持たないとなあ、もっと気楽に……』と言い出したとき、涙が突然溢れてきて、自分でも驚いて、ますますパニックになり泣き出してしまったんです」