シリアからの避難民のこと

レストランを出たあと近くの地下鉄駅に向かって歩いた。夜の街は少し風が冷たかったが、とてつもなく満腹だったので寒くは感じなかった。しばらく歩くと市庁舎の前に来た。

市庁舎ビルの正面の高いところに「Refugee Welcome」と書かれた大きな看板が掲載されているのが見えた。この年、夏頃からシリアの過激派組織「IS」の攻撃を逃れて八十万人に上る避難民が、欧州を目指して大移動しており大きな国際問題になっているが、EUの加盟国であるスペインも避難民受け入れを表明している。その意思表示を掲げているのだ。

実際イベリア半島に、どれほどの数の避難民が来ているのかは分からない。避難民のほとんどはドイツを目指している。これに苦慮するドイツ政府は、避難民受け入れを全てのEUメンバー国で分かち合うよう求めている。そのためスペインも受け入れざるを得ないのであろう。避難民がイベリア半島に来るのには、さらに長い距離を行かねばならない。

しかもピレネー山脈がフランスとの国境にある。そう考えるとどれほどの人数の避難民が来るのだろう。

八世紀にイスラム教徒のサラセン帝国がジブラルタル海峡を渡り、イベリア半島まで進軍して来て半島を支配した。そこからピレネー山脈を越えることができずスペイン止まりだった歴史を思い出す。

このたびは、イスラム教徒の避難民はフランスからスペインのほうに来ようとしているのだろうか。そうだとするとピレネー山脈を歩いて越えるのは相当厳しいのではないかと思った。

極東の島国日本では、シリアからの避難民問題について差し迫った問題とは、まだ意識されていない。しかし先進国として応分の負担を日本に求める声が世界にあることについては報道されている。

戦後の日本はとにかく表に立たず、平和主義を唱え、戦争とその惨禍からは随分と遠ざかってきた。世界からの経済大国日本への期待は大きい。しかし政治的にも、また、国民感情としても、それを現実の責務とまでは考えが至っていないことも事実だ。複雑な思いで看板をもう一度眺めた。