ドバイ・スペインへの旅

初日の躓き

この年、二〇一五年十月十日から始まった自宅マンションのエレベーター更新工事のため、十二日間完全にエレベーターは停止することになった。そのため、思い切って海外旅行に出かけることにした。行先は最初にドバイへ。そこから次女(以後、娘と呼ぼう)も加わって三人でバルセロナとマドリッドに行くことにした。

近年スペインは経済的にも政治的にも不安定なところがあり、何年か前にはテロ事件もあった。今から三十年ほど前に日本人旅行者のパスポート盗難や拉致に絡んだ物騒なことも起こっていた。そんなことが頭にあったのでスペイン旅行には躊躇していた。しかし観光地としてはとても魅力的なところである。今回は思い切って行くことに決めた。

十月十一日午後八時自宅を出発。池袋から羽田空港行きリムジンバスに乗ることにしていた。準備万端余裕綽々のつもりだったが、このあと大失敗をしてしまった。池袋に着き、電車を降りた。大事なバックパックを網棚に置いたままだったことに気づいたのは、リムジンバスの乗場であるメトロポリタンホテルのメインゲートに来た時だった。

「しまった! すぐに電車を追いかけよう」、そんなことは不可能だとの冷めた考えが頭の片隅にはあったが、ゆりへの説明も適当にして物凄い勢い(と本人は思っているが、人がみたら初老の男がなんで危なっかしく走ってるの? くらいであったことだろう)で走って、さっき通過した東武東上線の南口改札口の駅員に、(かくかくしかじか……)事情を話し「どうしたら良いか?」と尋ねた。

その駅員は私の慌てぶりとは対照的に冷静に「北口にある駅長室に行って下さい」と言う。言われるままにプラットフォームを全速力で走った。南口から北口までは相当の距離(おそらく二百mくらいか)がある。七十歳になった私には信じられないほどの長距離走だ。