4章 フェール・セーフの社会的側面

4-5 厳しい社会的対応例

イ.NASA(米国航空宇宙局)のスペースシャトルの商業利用からの撤退

1986年1月28日アメリカのケープカナベラルケネディ宇宙センターから6名の乗組員と1名の民間人(女性高校教師)が乗り組むスペースシャトルチャレンジャー1号が地上を離れた。そして再び地上に戻ることはなかった。

宇宙開発史上初の民間人を乗せたチャレンジャー1号は75秒後に爆発、破片は大西洋上に飛散、乗組員7名全員の生命が失われた。宇宙計画に初めて非専門家として参加した民間人の女性高校教師は軌道上から授業を行うはずだった。

宇宙開発の専門家集団であるNASAは、スペースシャトルの商業利用を確立するはずだった。マコーリフ女性高校教師は命を失いNASAはスペースシャトルの商業利用を撤退した。宇宙開発史上最悪の事故といわれるこの事故の原因は、大統領特別委員会が詳細に報告されている。これは先に述べた構造災だと松本氏は記述している。

ロ.カザフスタンのナザル・バエフ大統領の核兵器放棄

前記大統領はソビエト連邦崩壊に伴い突如として1400超の核兵器を手中に収めることになった。このことはカザフスタンがロシアと米国、ウクライナに次ぐ世界4番目の核大国になったことを意味していた。しかしナザル・バエフはほどなく核兵器を手放す決断をする。その理由は、核兵器を自国内に配備すると逆に安全保障上のリスクが高まるからだった。

ハ.ドイツの原発設置の中止、廃炉決断

1993年70億マルクの巨資を投じて完成していたミュルハイム・ケールリッヒ原発の設置許可を無効として廃炉にしている。理由はチェルノブイリ事故の悲惨さであり、これを機会にエネルギーシフトを完了した。

ニ.日本のJISAの法務、契約ハンドブックの全面改訂

日本の情報サービス産業協会(JISA)は2016年1月、「システム開発を成功に導く法務・契約ハンドブック」を8年ぶりに全面改訂し、『法務・契約ハンドブック─プロジェクトマネジメントの基礎知識─』として刊行した。今回の改訂は、下記の大型契約問題の経験を通してなされたものである。

(1) スルガ-IBM裁判

スルガ銀行と日本IBMが、両社が契約を結んだシステム開発プロジェクトが頓挫した原因がどちらにあるのかを争い続けた裁判。

スルガ側は、ベンダーであるIBMが高度な専門的知識と経験に基づいて開発作業をマネジメントしなければならない「プロジェクトマネジメント義務」違反が原因であると主張。

一方IBMは、システム開発はベンダーとユーザーの共同作業であり、ユーザーも開発に必要な協力をすべきという「協力義務」の違反が原因であると主張した。

裁判は2008年から続き、2015年に、IBMのプロジェクトマネジメント義務違反を認め、IBMに約42億円の賠償を命じた判決が確定した。

(2) みずほ証券─東証裁判

2005年12月のジェイコム株誤発注をきっかけに、みずほ証券と東京証券取引所の間で争われた裁判。みずほ証券の誤発注に対し、売買停止処置を取らなかったことを重過失と認定した。さらに容易に発見できるソフトウエアバグは重過失と認定されるという判断基準を示し、東証に約107億円の支払いを命じた。

(3) ベネッセ情報漏洩裁判

ベネッセがデータベースの保守、運用を再委託していた企業によって、顧客情報が漏洩した事件。ベネッセは、情報漏洩は最大の経営責任であることを明確に追及、分析して役員2人を解任。

情報安全の専門企業ラックと合併会社を設立し、顧客データベースの運営・保守を専門に扱わせるなどの体制を整備した。ここでフェール(事故)は全ゆる段階で起こるものとし、これに対するセーフとすべき義務が発注者・受注者双方に発生する。

“お客様は神様である”といった考えや、受注者側で何とかなるといったなれ合いは一切許されないことが明確にされた。またバグは想定ではなく重過失とみなされ、情報漏洩は最大の経営責任であることも明確にされた。抜本的な改革と言える。

※本記事は、2018年11月刊行の書籍『「フェール・セーフ」に学ぶ災害対策論』(幻冬舎ルネッサンス新社)より一部を抜粋し、再編集したものです。