はじめに

フェール・セーフとはシステムに故障が生じても、人間がミスを犯しても、人間には危害を与えないシステムの仕組み、または機能のことをいう。

既に工作機械の制御機能を対象としたものでは専門委員会でかなり検討が進んでいる。

フェール・セーフの考え方はシステムが故障しても、システムの機能を一時停めてでも人間に危害を与えないという安全第一の主義こそ今最も大切である。

主にフェールについても、必ず起きるものであると前向きに素直に認め、フェールの生起確率の低さから、事象をネグレクトしたり、想定外として逃げることはしない。

そして、フェールに対して常にセーフ策を対で準備しておく。

このようにフェール・セーフは一般的で優れた概念であるので、本書では以下のようにその考えを広め、深めていきたい。

1.日常生活にも、このフェール・セーフの考え方は有効であり、ここでは生きた知恵として生活現場にも生かし、不断に成果を上げ、フェール・セーフの考え方を健全な処世術として身につけ、フェール・セーフの考えを広げる出発点とする。

2.これまでの重大事故を展望し、これにフェール・セーフの技術の適用が十分であったらと反省する。

3.次にフェール・セーフの技術的側面について考察して視野を広げる。

4.またフェール・セーフの社会的側面についても考察して、組織・制度としても定着させる。

5.さらに、これから対応すべき、災害(フェール)の重要案件を挙げる。

6.そして、セーフを目指せる最新の技術に目を向ける。

7.最後にこれからの重大災害(フェール)を安全策(セーフ)として、最新技術をいかに対応させて成果を挙げるのかについて述べる。

8.全体を総括して、先制安全という考え方が今後可能になるということを指摘し、さらに予知、想定の困難な災害にも広く対応していく動きのあることも紹介した。

1章 フェール・セーフな日常生活

筆者自身体験したことであるが、日常の生活をする上で、知恵として既にあり役立つものである。ベースにはフェール・セーフの考え方が生きている。

1.作法

例えばお茶の作法、これを身に付けることによりお値打ち物の茶器を万が一にも壊すこともなく、お茶を優雅に頂ける。すなわち柔らかい畳の上で、両手で器を持ち手許を低く構えている。

2.段取り

何かに取り掛かる心構えや工夫を「段取り」と言う。ベテランの植木屋さんが、余裕時間(作業の実施中に物的、人的に、または不規則、偶発的に発生する遅れや中断の時間のうち作業者によって避けることができないとみなされる時間をいい、作業のための時間に見込んでおく必要がある)を惜しんで、はしごを所定の姿勢で締め付けて固定するという段取りを省いたため、転落事故によって失命に至ったというケースがある。筆者自身体験したことであるが、日常の生活をする上で、知恵として既にあり役立つものである。ベースにはフェール・セーフの考え方が生きている。

3.養生

健康に気を配り、日常生活の不摂生を改めること、あるいは病気の手当てをしたり、保養に努めたりすることを「養生」という。これを実行されている健康なご高齢の方を拝見することがある。

この他に物を運搬移動する時、床や壁などに傷がつかぬようにベニヤ板や厚紙などで覆い保護する。また塗装の際には塗装面以外に塗料が付かないようにマスキングテープで覆う。いつも感心して見学し、仕方を取り入れている。「養生」と言えば貝原益軒の「養生訓」を想起する方も多いだろう。ご一読をおすすめしたい。

4.規律

筆者も製造会社に就職し、工場現場で実習を行った。靴先には保護の金属カバーのある安全靴、当人の所属を示し、上からの落下物に備える安全帽、それに作業服、安全メガネ、事前の体操をした後、安全表示ラインをはみ出さないような安全歩行、すべて規律、規則を守って事故は皆無であった。

5.交通安全

安全を表示する赤・青信号、計画配置された車道、交差している歩行者道。これが大きな問題であったことを経験している。場所Aでは毎年数人の死亡事故があった。これは歩行者用通路の設定をもう5m車道より遠ざければ問題なかった。現にその後移転した場所の交差点Bはその工夫配置がされており、死亡事故ゼロを確認している。運転者がハンドルを切って気が付くのが間に合うからである。

これは危険(K)を予知(Y)し、訓練(T)により行動を身に付けるよう中央労働災害防止協会がリーフレットをマンガでまとめていて面白い。

6.防災教育

地震、集中豪雨等の災害は忘れた頃にやって来る。100年のスケールでみると、大丈夫ということは希である。親から子へ、子から孫へ恐ろしさを伝えていきたい。

例を挙げればキリがない。以上の例は関係者の自覚と知恵により、経費も余分に必要とせず実現できるものばかりである。

すなわちフェール・セーフは自覚の問題であり、実行力である。日常生活でフェール・セーフを体得し、これから指摘する大きな問題にも深い理解と行動を身に付けていただきたい。

自らの居住、勤務、通勤環境をフェール・セーフの視点から把握し、その時には自主的に精いっぱいの行動をやり遂げる。公助の前に共助が、その前に自助があることを忘れてはならない。

7.踊り場

階段の途中に設けられた、方向転換、休息、危険防止のためのやや広いスペース。

8.8分消防、90秒ルール(安全基準)

8分以内に消防隊が火災現場に到着し、隣家への延焼を防止する原則。

航空機の非常事態の際、不時着後90秒以内に乗客全員を降ろす。

長い間の経験が具体的な目安となった好例である。