4章 フェール・セーフの社会的側面

4-1 武谷の指摘

物理学者の武谷三男先生(故人)は、著書『安全性の考え方』(岩波新書)などにおいて、早くから優れた社会・科学的発言をしておられる。その要点を挙げてみる。

イ.安全を考える場合、いつも日本では実施側のいわゆる専門家とか専門技術者たちの意見が一番よく知っているという理由で大事にされ、使う“立場”ということは問題にならない。これが日本の安全の最大欠点である。

安全という問題には“公共”の立場に立った人が当たらねばならないのである。現代の安全の問題の中ではいつも“公共・公衆”の立場と利潤の立場の2つが対立している。公共が利潤より優先するという根本原則が海外でははっきりしている場合が多い。日本ではそれを確立させなくてはいけない。

ロ.許容量の概念をはっきりさせる必要がある。許容量という概念は、その量まで許して良い、その量までは危険のない量という考え方が横行していたが、間違いである。その量まででも実は危険があるのかもしれない。

しかしそのものを使うことによって社会的な利益があるならば、マイナスとプラスを天秤にかけて、ある量まではマイナスは我慢してもいいではないか、という量のことである。だからむしろ社会科学的概念である。しかし放射能問題はいつも安全の側に立って考える態度が必要である。

ハ.安全の問題は“疑わしきものは罰しなくてはならない”としておられる。

4-2 構造災

福島原発事故のような巨大災害は天災と人災という仕分けだけでは問題の実体を正確に分析し、今後の災害に備えることには不十分であるとして、災害社会学などを専門とする松本三和夫東京大学教授が提案された概念である。すなわちここで言う構造災とは科学と技術と社会をつなぐ複数のさまざまな制度設計のあり方や、そこに発生する複数の異質な主体がおりなす仕組みの機能不全に由来する失敗であるとしており、次の5つの特性が状況に応じて複合的に関与する複合境界災害であるとしている(松本三和夫『構造災』岩波新書より)。

イ.先例が間違っているときに、先例を踏襲して問題を温存しよう(ロックイン)。

ロ.系の複雑性と相互依存性が問題を増幅する。

ハ.小集団の非公式の規範が公式の規範を長期にわたって空洞化する。

ニ.問題への対応において、その場限りの想定による対症療法が増殖する。

ホ.責任の所在を不明瞭にする秘密主義が、セクターを問わず連鎖する。

この構造災を乗り越える提言としては、立場と結論の中身をワンセットとして明らかに見えるようにし、最終責任を取るようにする。その検証のためには事態のトレーサビリテイもなければなるまい。これ等を明確にしない、ムラという仲間内の心持良さがある限り、問題は解決しないと言える。