【前回の記事を読む】「一生忘れない…」恋人と過ごす娘を目撃した父の衝撃の一言

美大に合格、そして祐介との別れ

言葉にしてもらうと安心できた。それからは会うたびに「別れない」という言葉を言ってもらった。そうでもしないと私の心は二度と立ち直れないほど折れてしまいそうだったから。

「合格したよ」

「おめでとう。これまで本当に頑張ったね」

「ご褒美は?」

「こっちおいで」

祐介の家までやって来ると、リビングには大好物のデミグラスオムライスと苺のショートケーキが用意されていた。合格祝いに祐介が用意してくれていて、仮に落ちていても慰め会を開いてくれる予定だった。

合格発表は半ば諦めていて、合否はインターネットで公開されるのを一緒に見ようかと言ってくれていたが私は断った。繊細なことなので不合格だった場合、祐介に八つ当たりしてしまわないよう敢えて一人になった。合格を確認するとすぐに祐介に知らせた。

オムライスをあっという間にたいらげたあと、ショートケーキに手を伸ばす。私は上に乗っている苺を最初に食べた。

「里奈、大事な話があるんだけど」

妙に低く落ち着いた口調の祐介。

「俺たち、別れよう」

大好物のショートケーキを目の前に手が止まる。別れようと言われたことが聞き間違いだと思った。

「これから里奈は輝かしい未来が待ってる。俺なんかで立ち止まってちゃダメだ。自分のやりたいことに突き進んでいって欲しい……だから別れよう」

「別れたくない! 嫌だ!」

フォークを持った手をテーブルに叩きつけた。

「なんで? 私のこと嫌いになった?」

「そうじゃない」

「面倒くさくなったの?」

「違う」

「じゃあなんで! 結婚するって約束したじゃん!」

「里奈、落ち着いて。嫌いにもなってないし面倒になったわけでもない。俺じゃダメなんだ」

「私は祐介がいい」