第五章

甘えたいのに甘えられないし、一人暮らしを都内で始めてからは大学時代のように近所に友人が住んでいない。寂しさから孤独を痛感した。

通勤時間が多少長くても田所さんの言う通りにしていたら良かったのだろうか。思い通りにいかない苛々が、言ってはいけない一言に拍車を掛けた。

「本当に介護で来れないの? ただ、私に会うのをめんどくさがってるだけじゃない?」

「なんでそんなこと言うんだよ。俺こんなに頑張って里奈ちゃんに会いに来てるのに」

分かっていた。田所さんはできる限り、最大限尽くしてくれていた。私自身に問題があることは自覚している。

田所さんと離れて会えなくなる日が多い中、田所さんへの気持ちが薄れていった。私は側にいてくれる人が欲しかっただけなのかもしれない。

自分のことを好きでいてくれて、側で甘えさせてくれる田所さんだったから好きだったのかもしれない。

だから「側にいてくれない田所さんなんてもう知らない」なんて言ってしまったんだ……。

別れ話をした時「里奈ちゃんは十あるうち、九つ良いことをしても俺のたった一つのミスを責める」と言われた。

私は「嫌なことは嫌。それを指摘して何が悪いの?」と返して、田所さんの言った言葉の真の意味を理解できなかった。

土砂降りの雨が続く外は薄暗い。家にいる時は日光で部屋を照らし、なるべく電気は付けないでいた。

それは雨の日も同じで薄暗い部屋の中、布団から出ることもせずに携帯でSNSを眺めていた。あれほど既読をつけるのが早かった私は、同期のグループラインから送られてくる業務内容のメッセージの多さにポップアップ表示を見るのも憂鬱だった。