【前回の記事を読む】「大好きな二人には仲良くいてほしい」恋人を招いた母と食事

第二章

私は高校三年生になり、週六日は絵の予備校に通った。土日になると時間帯は決まっていなかったが、どんなに忙しくても一時間は必ず祐介と会っていた。

東京の美術大学への入学は、浪人する人もたくさんいるほど簡単ではないことで有名だ。デッサンと立体構成の課題にそれはもう真剣に取り組んだ。忙しい時ほど祐介の存在は大きく、会えない時間は美術へ専念することができた。どうしても寂しい時は寝る前に電話をしてお互いに励まし合いながら愛を育んだ。

美術大学受験ではほとんど実技の点数が合否を決める。かといって学科試験を疎かにして良いわけではなく、簡単な問題なら教えることができるという父から勉強を習うことにした。私はどちらかというと理系だったので国語と英語が大の苦手だ。

週一で家庭教師として家に来ることになった父は、あたかもここが自分の家かのような振る舞いをする。それがとても気に入らなかった。不満がたくさん溜まっていると、母から「今は自分のために我慢して、しっかり習いなさい」と窘められたので、割り切る努力をした。

私のために美大受験を協力してくれることは有り難いと思っていた。それでも母には愚痴をこぼしていたし、大嫌いな父と顔を合わせることも、口を利くことも苦痛なことに変わりない。

父との約束の日曜日、勉強を教えにくる前に少しだけ祐介と公園で待ち合わせていた。忙しくしていた私に時間を合わせて会いに来てくれる。

「会える時間が少なくて寂しいな」

「いつでも会いに来るから」

「勉強が三時に終わるんだ」

「待ってる」

祐介の肩に顔を埋め、温もりを肌で感じる。視線の先に一台の車が公園を横切るのが見えた。見覚えのある車は父だと気づく。思わず祐介の首元に顔を隠した。

彼氏がいることは父に黙っていた。言えば何かと悪く言われるに違いないからだ。母から着信が来て、父が呼んでいるから家に帰るようにと促された。

祐介は「すぐに帰ってあげて」と不安げな私の姿が見えなくなるまで公園から見守っていた。