第二章 奔走

【2】

冬場にしてはわりと暖かかった金曜日。夕方になり、そろそろ帰ろうかと身支度をしていると、後輩の宮原が一枚のファクスを持ってデスクまでやってきた。

「何、抗議文?」
「いえ、クレームというよりは報告ですね。この内容だと、消費生活センターに持ち掛けるのが正しい気もしますが」
「では、なぜ俺に?」
「大森さんの指令なので、悪く思わないでください。それでは、お先に失礼します」

キャップのご指名であれば仕方ない。宮神が渋々ファクスに目を通すと、そこには達筆な文字で文章がしたためられていた。

前略 突然のファクスで失礼いたします。

私は、神戸市中央区に住む七十七歳の隠居爺で、原進と申します。

先日、近所のキンキマートで納豆を購入したのですが、いくらかき混ぜてもなぜか糸を引きません。私も妻も朝食には納豆が欠かせないのですが、どうしても気味が悪く、食べられませんでした。果たして、糸を引かない納豆などあるのでしょうか。私は八十年近く生きてきましたが、ついぞ見かけたことがありません。果たして、このようなことがありえるのでしょうか。

当初は、何かしらの理由でひとつだけ不良品が混じっていたのかと考えましたが、妻の話によると、どうもご近所の奥さんたちのあいだでもこの噂が広まっているらしいのです。

生産しているメーカーは、地元でも人気の福豆食品です。何度か電話をかけたのですがつながらず、御社にファクスをお送りした次第です。

よろしければ、御社で取材を行い、真相を明らかにしていただけないでしょうか。

何卒よろしくお願い申し上げます。

草々

宮原の言っていたとおり、消費生活センターに持ち込むべき話のようにも思えるが、ニュース性が皆無なわけではない。

福豆食品は、大豆食品を主力として生産する食品メーカーで、兵庫県内であれば、知らない人の方が少ないだろう。宮神もスーパーで納豆や豆腐を購入する機会があるが、どれも価格の割に味が良く、好感を抱いていた。

実際に自分で食べてみるか。そう思った宮神は、帰りしなに自宅近くのキンキマートへ寄った。しかし、福豆食品の納豆は陳列棚にひとつもなかった。これは何かあるかもしれない。

※本記事は、2019年10月刊行の書籍『AMBITION 2050』(幻冬舎ルネッサンス新社)より一部を抜粋し、再編集したものです。