11月8日(日)

我慢

今日は朝から雨で、夜に入ってようやく上がった。

9時半に、あい子と一緒に良子を訪ねた。

鼻のチューブはそのままであった。

明日退院の予定であるが、それは当然無理と思われる。

苦しんでいる訳ではなく、院内散歩も数回行ったという。

そして良子は、「散歩する」と言って立ち上がった。私たちは後ろに続いた。良子が、やせ細ってしまったように見えた。

看護師が点滴液の入れ替えに来た。

「退院は2、3日遅れるでしょう」と言った。

「特別な不都合は発生していませんか?」

「そんなことはないです」

と彼女は、確か、胃や腸の音、と言ったが、正常であると言った。自分は先生でないのでそれ以上のことは言えないが、と。にこやかな顔であった。

「我慢比べだな。焦らず、我慢するしかないよ」

良子はうなずいた。

11月9日(月)

峠を越えた

夕刻6時半にあい子と一緒に良子を訪ねた。病室の、ドアを開けるのが、怖かった。鼻のチューブを着けたままで、青白い顔で横たわっている姿を想像した。胸の動悸は高まっていた。ドアを開けた。

正面に、立って、こっちを向いている笑顔の良子がいた。

わっ、と私は叫んだ。「良かったなあ!」

点滴はまだ続いていたが、重湯の食事は始まっていた。

「オナラは出たか?」

「出た」と言った。

「シャワーもした」と気持ちよさそうに言った。

先生の説明では、「全身麻酔、硬膜外麻酔の影響で、胃腸が眠りから醒めていなかった」ということらしい。

「時間の経過とともに症状が自然に改善することが多く、」という日経BPサイトの解説は、正しかったのである。

「散歩しよう」と良子が言った。

昨日までとはまるで違っていた。背筋がまっすぐ立っている。足取りがしっかりしている。立ち止まって息を継ぐこともない。そしてよくしゃべる。もう大丈夫だ! と私は歓喜した。

部屋に戻った。

「峠は越えたな!」

バンザイをしたかった。

今日の段階では退院の日取りは告げられなかったそうである。いずれにせよ、「2、3日遅れる」という昨日のナースさんの言葉は、正しいと思われる。

「もう、焦ることはないね」

明日同じ時刻に来ると言って、私たちは病室を出た。良子は手を振った。

小雨が降り続いており、しかも生暖かい。湿度が高く、車窓が曇るのでクーラーを動かした。

※本記事は、2019年3月刊行の書籍『良子という女』(幻冬舎ルネッサンス新社)より一部を抜粋し、再編集したものです。