マンネリ化した夫婦は…

高梨とは対面の形で座ったままで、どれほどの間気詰まりな状況をつくりだしていたのかは判らない。ともかく内心の思案を打ち切ることで、やっと我に返った。すると恭子の夫と同じ立ち位置にいるにすぎないのに、相手に情報を提供し、ややもすると教えを垂れなければならないような立場にいる自分の姿は滑稽な道化役ではないかとも思える。

意外にも話の相手を置いてけぼりにして、そんな余裕も出てきた。そこで気を取り直し、この気詰まりな状況に早々にけりをつけようと、恭子との関係につき無難な説明を始めた。

「奥さんとはご承知の通り、引っ越しの手伝いをさせてもらった折に紹介いただいて、そのあと新宿であった絵画展に行った時に会場でたまたまお会いしたんです。その間に七年ほども経っていたんじゃないでしょうか。本当に偶然でした。それからですね、時たま興味のわく特別展示会や評判をとっている院展などの開催につき、情報を知らせ合って見に行くようになったのは。

ただ私のほうは芸術方面の趣味としては音楽ぐらいしかわからないもので、絵のほうにはそう関心がなくてですね、そういうことですから実際のところ工芸品の展示会や絵画展には知り合いが出しているから見に行ってみるというぐらいでしたね。奥さんとご一緒したのは本当に何回か数えるぐらいだったと思います。絵の面白さとか価値についてはほとんど奥さんのほうから教えてもらうという形が多かったですね」

「どのような絵画に恭子は関心を持っていたんでしょう?」と、高梨は畳みかけるように聞いてくる。

「ラファエロ前派の画家とフランス印象派の展覧会には何回か案内してもらいましたので。その方面の絵画だと思います」

夫のほうは絵画にはもともと関心も素養もないのか、そのあとの質問をどうしたものか考えあぐねているようだった。そして気持ちを切り替えたのか、余計な雑念は取り払ってとばかりに、一家の不幸から始め、単刀直入に本来聞きたかったと思えることを持ち出してきた。