「恭子と結婚して結局一九年間一緒に暮らしてきたことになります。その間に遅まきながら子供も一人授かりまして、周りから見ればごくごく普通の気心の合った夫婦と思われていたと思います。二人目の子供の時には本当に残念なことにというか、私も立ち直れないような、ひどいことになってしまいましたが……一緒におれた間のことなんですがね、恭子のほうは私に対し素顔を見せないというか、夫婦の間でもお互い何かうちとけないままに二人の生活は終わってしまったのかなという気持ちですね。

これは私のほうの独りよがりの考えかもしれないし、夫の私のほうがずっとよそよそしい態度を見せるものだから妻のほうは妻のほうでそれに合わせようとしたまでで、彼女のほうも私のことを少し偏屈な、地をさらけ出さない人という風に思っていたのかもしれません。ともかくお互いにうちとけ合ったという時がないままに二人の生活は終わってしまったということでしょうかね。

結構長く一緒にいて妻が描いた絵も時々は見たこともあったんですが、……趣味の絵のことだけでもこのような具合ですから、妻はこういった性格でしたなどと、具体的に妻のことをほとんど何も語れない有様です。本当にお恥ずかしい次第です。マンネリ化した日常を過ごす夫婦の常というのでしょうか、妻の絵を一枚でもじっくり鑑賞したという自覚が残念ながらありません。今となっては恭子に悪かったなと思っています。

展覧会などで多分展示の絵を巡り、話し合いなどされたこともあると思います。それをきっかけに恭子の個性とか性格の特徴といったものに気づくようなことがありましたでしょうか?」

高梨が夫婦の機微にかかわることまで持ち出し、正直そのものと思える感情まで打ち明けてきたので、来栖のほうにも少しは襟を正してまともに答えなければいけないなという心境の変化が現れてきた。