一方、腹部では、血管壁は弾性から筋性に移行します。ここでは大動脈瘤がよく見られます。司馬遼太郎は、大動脈瘤の破裂で手術中に亡くなりました。七十二歳でした。私は司馬遼太郎の作品が好きで、若いときは随分読んだので、残念に思いました。

一般的にいうと、腹部大動脈瘤は破裂していない限り、手術あるいはカテーテルなどで容易に対処できます。司馬遼太郎も腹部に手を当てて、拍動する腫瘤を見つけていれば、安全に治療できたのです。大動脈から分岐した中くらいの動脈でも、硬化の起こしやすいものとそうではない動脈があります。心臓を養う冠動脈は、動脈が閉塞しやすい血管です。しかし硬化の意味する固いというよりも、血栓などはむしろ柔らかい病巣で、粥状硬化といわれるくらいです。なにしろバルーンという風船で、病巣を壁に押し込められるのです。

上下肢でも動脈は全く違います。両側下肢の二本の動脈は、動脈硬化の好発部位です。ここが詰まると、閉塞性動脈硬化症になります。ところが上肢つまり肩から指に至る動脈は、詰まるということが滅多にないのです。

閉塞性動脈硬化の症状は、間欠性跛行です。歩くと、下肢の痛みやしびれ感などが起こるのに、立ち止まると症状が収まるというのがその特徴です。この症状を起こす病気は、二つあります。一つは閉塞性動脈硬化で、他は腰部脊椎管狭窄症です。後者は整形外科疾患で、画像から診断可能です。高齢者の多くがこれに悩まされます。

一方、閉塞性動脈硬化では、下肢の血圧を測定することで診断がつきます。どのようにして下肢の血圧を測るのか、それを篠田昌幸という日本の技術者が解決しました。

篠田昌幸 血圧計の開発者

篠田昌幸さんは、さまざまな血圧や脈波の測定に大きな貢献をした技術者です。一九三七(昭和十二)年、名古屋の生まれです。私が東大病院老人科で講師をしていたときに、携帯型電子体温計を持参して治験の依頼に訪れたのが知り合ったきっかけでした。当時は株式会社スズケンに勤務していました。その後、独立して愛知県小牧に、株式会社日本コーリンを立ち上げて、さまざまな血圧計を企画、商品化しました。

※本記事は、2021年7月刊行の書籍『健康長寿の道を歩んで』(幻冬舎ルネッサンス新社)より一部を抜粋し、再編集したものです。