誤嚥性肺炎が高齢者のとどめをさす

人間には、前述のように食物の通る道と空気が通る道がありますが、両者が交叉して一緒になる咽頭腔という部位があります。その先の気道では、空気以外は水一滴も通せません。異物が入ると、咳反射が起こり、むせることになります。ところが脳卒中、パーキンソン病、認知症などがあると、嚥下機能が阻害されて、気道に細菌などが吸い込まれ、炎症を起こします。これが誤嚥性肺炎で、高齢者の肺炎の九割を占めるといわれます。寝たきりという状態は、起坐位と比較して、呼吸がし難いのです。

さらに注意すべきは、口腔は細菌の巣窟だということです。常在菌ですから、普通に生きている人には問題ないにしても、障害を持った高齢者では、ひとたび気道に細菌が入ると誤嚥性肺炎を起こします。とくに夜間に咽頭部に貯留されていた分泌物が気道内に入る不顕性誤嚥が多いといわれます。抗菌薬で一度は治っても何回も反復し、薬が効かなくなります。嚥下反射と咳反射の二つが作動しないと、誤嚥を招きます。

高齢者では、口腔ケアが必須です。食後、三回は歯をブラッシングしましょう。目的は、口腔内を清潔に保つことにあります。

咽頭腔というのは人間特有で、これがあると多様な発音が可能になります。それは相互のコミュニケーションに大きな役割を果たしています。多彩な言語や音楽にも影響し、大脳機能の発展に貢献しているのです。しかし、一方ではそれが誤嚥につながっています。トレードオフがあるのです。とくに誤嚥は高齢者で脳卒中、認知症など、身体機能が衰えたものに圧倒的に多くみられます。医師、言語療法士、看護師が共同して、早期に嚥下機能を的確に診断し、有効なリハビリを開始する必要があります。