日本に新しい血圧測定方法を輸入した篠田昌幸

血圧計には二種類あります。聴診器でコロトコフ音を聞く聴診法とカフ内にある容積脈波から測るオッシロメトリック法です。前者は昔からある方法ですが、血圧が測定者の聴力に依存しているので数値にばらつきがあり、集団検診などで騒がしいときには聞き取りにくいという難点があります。これに対しオッシロメトリック法は聴診器を使わないので個体差がありません。

この方法を米国から日本に導入し、商品化したのが篠田さんです。現在では集団検診や家庭内血圧の測定は、ほとんどがオッシロメトリック法になりました。保健所や診療所などで、腕を突っ込んで測定できる固定した血圧計がありますが、あれも篠田さんが考案したものです。

閉塞性動脈硬化では、下肢の血圧を測定する必要があります。上腕では動脈は一本しかないので、血圧測定が容易です。しかし足では背部と踵をまわったところに、動脈があります。米国では、ドプラー法で動脈にトランスジューサーをあてて測定するという迂遠な方法で血圧を測定していました。これに対してオッシロメトリック法ならば簡単に測定できるのではないかと篠田さんに提案したところ、ドプラー法に遜色ないことが分かりました。

閉塞性動脈硬化は、冠動脈硬化を合併することが多いのです。だから足の血圧が低いことは、強い動脈硬化があることを示唆しています。一般に下肢の血圧は、上肢より高いことが知られています。上下肢の血圧比をABI(足首―上腕血圧比)といい、正常値は一・〇~一・三くらいです。これが〇・九以下になると、閉塞性動脈硬化の疑いが濃厚になります。

両側の上下肢にカフを巻いて、四カ所で血圧を同時に測定する機器を、篠田さんが考案しました。フォルムといいます。四カ所の血圧曲線が即座に現れ、ABIが自動的に表出されます。アクセスが容易で誰でもできるので、診療所や病院で広く普及しました。

フォルムという機器は、動脈硬化予防に有用性が高いので、会社の株価が急上昇しました。だが篠田さんは、その利潤を公共のために使うという使命感を持ち、五十億円という金額を、動脈硬化予防の研究基金として拠出しました。それが公益信託日本動脈硬化予防研究基金です。その運営を私に委ねられましたので、全国から高血圧に関する学者で構成する委員会を立ち上げました。

篠田さんは平素、「今の日本に必要な社会は、健康長寿社会である。その実現のための大規模研究、大規模啓発を可能ならしめるための資金を提供してくれる人は、必ずいる。私はその火付け役になりたい」と述べていました。篠田さんは、二〇一〇年に、七十二歳で亡くなりました。