高齢者高血圧、薬は飲まないほうがいい?

年齢が八十五歳以上になったら、心臓病がない限り降圧薬は不要と思っています。九十歳以上の高齢者の高血圧に関する疫学的統計など、まだ信頼に値する研究成績がないのです。以上から、高齢者高血圧では次の点に注意をしてください。

①年をとるにともなって、収縮期血圧が上昇し、高血圧患者が増える

②高齢者高血圧の血圧値は動揺するから、血圧を何回も測定するのは無駄である

③後期高齢者の高血圧では、心臓病がない限り降圧薬の投与を控えめにする

④高齢者高血圧の死因は、脳卒中よりもがんの方が遥かに多い

⑤今の医師は、血圧が高いとすぐ薬を出し、年齢を考慮しない傾向がある

⑥年齢が高くなればなるほど、薬を減らすか飲まないようにする

第二の死因 心臓病

我が国の二〇一九年の主要死因は、以下の通りです。

①悪性新生物、②心疾患、③肺炎、④脳血管疾患、⑤老衰

悪性新生物はがんのことです。がんは加齢とともに発症が増加し、多臓器に及びますが、心臓病は一つの臓器に限定した病気です。それは高血圧、喫煙、脂質異常などに関連し、米国では常に死因の首位を占めてきました。

心臓という臓器は、生まれた時から亡くなるまで、片時も休むことなく動いています。それは三十億回以上にも及ぶでしょう。年をとると血管も固くなり、血圧も上がるために仕事量も増えてきます。以前、監察医務院で剖検例を対象に、臓器重量と年齢との関係を調べたことがあります。肝臓でも腎臓でも、十歳代から二十歳くらいに最も重くなり、以後は年とともに萎縮するので軽くなります。ところが心臓はむしろ年齢とともに重くなり、七十歳くらいにピークが来るのです。

老人心というのは、それ自体が病いなのです。心筋細胞は、原則として分裂することができません。心筋梗塞で冠動脈が詰まって、その還流領域が壊死に陥っても、回復することはできないのです。九十年も拍動を続けていれば、心臓の至るところに障害が起こります。

以前、高齢者の僧帽弁の付け根のところを剖検で観察したことがあります。僧帽弁というのは、左心房と左心室との間にある弁で、常に上下運動をしています。これが金属片なら、すぐ二つに折れてしまうでしょう。それがどうなっているのか、ソフテックスというⅩ線で撮影し、詳しく調べてみました。弁が心筋組織に付いているところは石灰が沈着していました。またムコ多糖類という物質の沈着がありました。要するにポンコツになっているのです。だが何歳になっても働いています。高齢者の心臓はこういう老化が根底にあるということをわきまえておくべきでしょう。

※本記事は、2021年7月刊行の書籍『健康長寿の道を歩んで』(幻冬舎ルネッサンス新社)より一部を抜粋し、再編集したものです。