「ところでミスターハマーシュタイン。あなたのハリウッドでのお仲間はどこに居られますかな。皆、それぞれに役割を全うなさっておられましょうか。先ほどは随分と思い切ったお話をなさったようですが、ユダヤ教徒としての矜持はまだお持ちだと思いましたので」

「私の話を聞いていたのか。それなら話をしやすい。私の言動に口を挟めるのは君ぐらいのものだ。君の出演部分は全くのパーフェクトだ。いやそれ以上といってよい。だがしかし、監督の意図には従ってもらわんとな。我々もこのままでは困る。君の言動が常に問題を引き起こす様ではな」

「……今言われたことはどうも合点がいきません。映画の中でのことなのか。それ以外のことなのか。辻褄(つじつま)が合いませんな」

「映画撮影に決まっているだろう。とにかくだな、君は一人の出演者なのだから煩わしいことはひとまず棚において、以後の撮影に全力を傾注してもらいたい。それにかかわる些末なことはこの際忘れてもらいたいのだ」

婆須槃頭は微笑を浮かべた。ハマーシュタインへ辛辣(しんらつ)ともいえる受け答えは、そこで止った。

婆須槃頭は笹野たちに向き直った。

「私ごときが果たして日本人なのか、という疑問を抱かれておられますな。それについては今は申し上げられない。撮影中のインド映画の出演者とだけ言っておきましょう。この映画は脚本の段階から今までの、どのジャンルにも属さない映画となりつつあります。完成時にそれを実感なさるでしょう。とにかく、一刻も早くですな、日本に舞い戻られて、この映画の広報宣伝をやっていただきたい。そのことがいずれ、日本映画の益となるでしょうから」

「私共にどうしても言っておきたいことがあるそうですが、それは何でしょうか」笹野が尋ねた。

「それを言うにはこの席では憚られる。いずれあなた方には何らかの形でそれを伝えましょう」

笹野は内山と顔を見合わせた。内山はため息をつきかぶりを振った。笹野は涯監督に向き直った。

「ご覧のとおり、婆須槃頭君は私らに多くのことを語りません。あなたのお仕事のこともありますので、私の取材はここいらで終わりにしたいと思いますが」笹野は涯の顔を窺うように言った。

「いいでしょう。今日は撮影の中休みでもあり、私も少ししゃべりすぎた。あなた方には日本での活動も待っておりましょうし、この辺で切り上げることにいたしましょう」

涯はハマーシュタインと所長に同意を求めた。二人とも同意した。その時だ。婆須槃頭は立ち上がってステージのほうへ進みだした。

※本記事は、2021年5月刊行の書籍『マルト神群』(幻冬舎ルネッサンス新社)より一部を抜粋し、再編集したものです。