【前回の記事を読む】【小説】記者会見の場で見せつけた、主演俳優のカリスマ性

記者会見

司会の男の誘導で佐々木洞海が映画の概要を説明した。映画の背景になる時代の説明などは大きく割愛した。出演する俳優は壇上の二名の他に多数という表現で済ませた。

脚本監督の紹介で新藤由美子を紹介した。新藤由美子が立ち上がって頭を下げた。監督への質問も飛び始めたが、みな気もそぞろで次の出番を待っていた。私は皆の気持ちが痛いほどわかった。婆須槃頭ばすばんずを早く質問の場へ引っ張り出したかったのだ。

司会が俳優への質問に切り替えた。待っていたかのように挙手が多数上がった。その一人が立ち上がって婆須槃頭へ最初の質問を浴びせた。

「主役をされる婆須槃頭さんにお聞きします。あなたは海外で映画デビューなさり、それ以後多大な人気を集められておられますが、この日本で今なぜ映画デビューをされるのか。また、芸名のままで、なぜ本名や出身地、生年月日などを明かされないのか、日本人として知りたい重要な事柄です。この点についてお答え願います」

司会が婆須槃頭に答えを促した。

「今の質問で本当に知りたいことは、なぜ日本映画に出ようと思ったのか、それではないかと思います。お答えいたしましょう。私はインドでデビューしそれからいろいろな国で映画に出ましたが、祖国の映画はまだでした。いつか出たいと思っていた。そこへ新藤監督から出演のお誘いがあり、送られてきた脚本を読んですっかり気に入り、出演を承諾して今日の会見となったわけです」

質問した記者がいらついたように質問を続けた。

「そんなことはみんな承知していますよ。我々が今一番知りたいのはあなたの素性です。なぜ日本名と出身地、経歴、略歴をおっしゃらないのか、不思議です。日本人が今一番知りたいことです。おっしゃってください」