神様は、自宅(はっきり言わないが、どうやら銀河に面した高台にあるらしい)に戻ることは正月以外なく、この業務用のテレポーテーション装置の中で生活している。だから、この装置は超一流ホテル以上の優れた機能を備えている。

例えば、ドレッシングルームである。面会予定表に記載された衣装(AIがデザイン)の番号を、入室時に入力する。部屋に入って、両手を広げると、五・七五秒後には、姿かたちを借りる俳人の衣装に身が包まれ、同時にメークアップも終わっている。これも、忙しい神様の時間節約に大いに役立っている。

神様の繁忙期は夏で、春、秋がこれに次ぎ、俳人の作句が少ない冬は比較的時間が空いている。正月は一週間自宅に帰って仕事を休む。これが一般的に新年の句に秀句、名句が少ない理由のようだ。

予定表に載っていた俳人が、突然の事故や病気の悪化で面談の予定がなくなったなどで、仕事が早く終わった時や、俳人が寝静まる深夜になると、神様に余暇の時間が訪れる。

余暇には、ビデオ室で、日米英仏伊印韓の映画やテレビの人気番組の収録ビデオを鑑賞したり、有名高級スピーカーが、ハイレゾ対応の迫力ある重低音を響かせるオーディオ室に籠っていることが多い。

音楽の好みは幅広いが、強いていうと、モーツアルトの後期の作品である、ピアノ協奏曲第二十一番ハ長調、クラリネット協奏曲イ長調、交響曲第四十番ト短調、第四十一番ハ長調『ジュピター』を好むそうだ。幼少時に神童と呼ばれ、天上の音楽を響かせたモーツアルトは、神様の趣味に合うのだろう。

飲み物は、生来の酒好きのため二日酔いを避けて、ビール、日本酒、洋酒、焼酎、爆弾酒ばくだんしゅは口にせず、もっぱら、梅酒の古酒か高麗人参酒のオンザロックをなめつつ、ビデオ室かオーディオ室の高級革の安楽椅子に寝そべり、奥さん手製のクッションを腹の上に乗せて、至福の時間を過ごす。

運動はあまりしない。気が向いたら月に一、二度、専用プールで高飛び込みを数本試みてみたり、得意の日本泳法の水府流すいふりゅうでプールをゆっくり十往復したりする。