EP・CPを脱炭素経営への基本指標に

気候変動対策と経済成長は両立できないのか

筆者が前述したESCO事業と最初に出合った時に、エネルギーのサービス化に加えてもう一つ面白いと感じたことは、ESCO事業の典型的なビジネススキームである「シェアード・セイビングス(Shared Savings)契約」の考え方でした。

省エネルギー・エネルギー効率化方策をうまく導入すれば、必ずエネルギーコストの削減につながり、その削減分を顧客とESCO事業者と分け合うことで、初期投資を回収していこうというものです(図表1参照)。

図表1:ESCOシェアード・セイビングス契約スキーム

つまり、そのスキームの根底には、そもそも今まで使っていた経費の削減分を活用することで、顧客も事業者も、そして地球環境も皆ハッピーという「三方よし」の発想があることです。

まさにわが国の近江商人の経営哲学そのものです。筆者は気候変動に起因する地球環境問題は、単に人間の善意だけに期待するのでは絶対に解決にはならないだろうと考え、経済性も加味された問題解決型サービスビジネスとして成立させることが絶対条件であろうと確信し、今日までそのビジネス化を追求して参りました。

つまり、気候変動と経済成長をトレードオフであると、両立できないと認識した途端に、物事も思考も止まってしまう。なんとかこの両立を図っていくことこそが、気候変動のようなとてつもなく大きく困難な問題・課題への唯一の解決策であるとの信念は揺るぎなく持ち続けており、それから四半世紀経過した今では、そのビジネス化が筆者のライフワークとなっております。

2015年のパリ協定以降、世界的に低炭素から脱炭素への大きな転換が始まり、奇しくも今回のコロナ禍が幸か不幸かこの転換自体を早めることになりました。

中途半端な低炭素ではなく、ゼロを目指す脱炭素です。そこでは経済成長を追求しながら脱炭素も早急に進めなくてはならない、転換のスピードを早めざるを得ないのです。

欧州は早速にもグリーンリカバリー戦略を打ち出しております。また、まだまだ経済成長優先段階かと思われていた中国ですら2060年でのカーボンニュートラル宣言をしました。

あの米国もバイデン政権に変わって、2050年カーボンニュートラル宣言と同時に気候変動対策の国際協調優先へと対応方針と戦略を転換しました。

わが国も昨年の2020年10月に表明された菅首相の「2050年カーボンニュートラル宣言」によって、やっと重い腰が動いたというところです。いずれにしても今後は、コロナ禍からの経済復興とさらなる成長につながるような気候変動対策へ集中的に投資していくという発想が必要になります。

したがって、企業においても、企業としての持続可能な成長と事業自体の脱炭素化を両立していく道を選択せざるを得ないでしょう。

まずは、経営トップの脱炭素化を主軸とした経営スタイルに転換するという覚悟と将来の大きなビジョンを掲げて、それぞれに抱える現場で働く人々を腹落ちさせ、全社一丸による推進体制を構築していくことが肝要となります。