EP向上による「絞り切った雑巾論」からの脱却から

筆者が省エネルギー・エネルギー効率化を実ビジネスとして展開することを自らの使命として活動を開始して、早くも四半世紀が経過しました。その25年間にわたる葛藤の歴史は、まさに「絞り切った雑巾論」との戦いでもあったことはすでに述べました。

省エネルギー・エネルギー効率化の提案を顧客に提示する時には、必ずその方策の説明と同時に、その方策を実施した場合の費用対効果を求められます。つまり、方策の導入によって結果としてエネルギーの消費量をどの程度減らすことができ、そのエネルギーの減量によってコストをどの程度下げることができるのか、そのための必要な投資額をそのコスト削減で除すことで投資回収年数を算定することです。

確かに現場の担当者が社内での投資稟議を通すためには、この種の経済性のチェックは止むを得ない面もあるかもしれませんが、例えばこの回収年数が3年以内ならGOであり、それ以上ならNotGOというような単純な投資評価・判断には、いつもどこか割り切れなさを感じておりました。

この経済性評価は、その時々のエネルギーコストにも依存し、それが高ければ回収年数は短くなり、低ければ長くなります。確かに日本の企業現場において、単純投資回収年数が3から5年を切るような方策は、それほど多くはないかもしれません。

ここに「絞り切った雑巾論」が幅を利かせ、だからもう省エネルギー・エネルギー効率化の余地はなく、現場はしっかりと最適運用をしておりますとなるのです。管理者や経営者側もこうした現場からの声を鵜呑みにして、「もう当社は省エネルギー・エネルギー効率化を十分に達成してきており、これ以上の投資の必要はありません」と安易に判断してしまうのです。

この根本ロジックを覆すためには、どうしたら良いか。この筆者の長年の大きなテーマにどのような結論を出していくべきか。

従来のエネルギー消費量を減らすという省エネルギー・エネルギー効率化の狭い概念から脱却し、次世代型の省エネルギーのあり方を目指すべきです。そのために判断する経営指標として、「エネルギー生産性」さらには「炭素生産性」を採用することです。

以上のことをまずは経営者層が理解していただき、全社的なエネルギー生産性や炭素生産性の定点観測ができるデジタル化した仕組みを導入するための投資判断を早急に下してほしいのです。

そうすることでこれまで単純投資回収年数だけの議論で停止していた思考を本来の企業としての生産性向上に向けて、同時に脱炭素化推進の基礎となる炭素生産性の向上へと舵を切ることができるのではないでしょうか。成功する脱炭素経営においては、自社における事業の成長と脱炭素化推進が両立していくことが必須であり、そこで初めていわゆる個社におけるデカップリングの達成が見えてきます。

2050年のカーボンニュートラルは世界の有力国においては共通の目標となりつつあり、現在から30年後の時代にも隆々とした企業として生き残ることができる持続可能性を示すことが現時点の経営者には求められています。そのためには、まずは自らのビジョンとそのトップのビジョンに腹落ちした現場担当者らの力の結集によって、「絞り切った雑巾論」からの早期の脱却を契機として、エネルギー生産性、炭素生産性の向上へと大きく舵を切ってほしいものです。