私は彼女の言葉を聞きながら、ただ黙ってうなずくしかなかった。それでも、動物のおりに入れられるような恐怖が残った。

閉塞へいそくされた集団が死へと追いめられたなら、人間性を失うのはむしろ当然のことに思われた。

施設のスタッフにうながされて、古い階段をきしませて、二階のミーティング場に上がると、十数人のメンバーに紹介された。彼らは笑顔と拍手で私をむかえ入れてくれた。私はそれをも不思議な気持ちで受け止めた。

なぜなら、私は久しく孤独の中で生きてきて、人間あつかいされたことも、仲間あつかいされたこともなかったからだった。

しかし、確かに、彼らは私と同じやまいわずらった同じ仲間たちであり、同じように世間から見捨みすてられた同じ仲間たちだった。私はそんな彼らにやっと共感らしきものをおぼえて、安堵あんどしたのだった。

勿論もちろん、施設の生活はつらいものだった。ここでは自分の考えを使ってはならないという。ここは鉄格子てつごうしのない刑務所だったのだ。

それでも、皆が絶望を背負せおいながら、互いにわらい合っているようなところがあった。皆が自分の死を前にして、仲間たちと何かを共有きょうゆうしようとしていた。

といっても、中にはやはり意地の悪い、変質者のような人もいて、人を攻撃しようと目をひからせていた。ここは人間の光明こうみょう面と暗黒面とが、ないまぜになった矛盾むじゅんの場でもあったのだ。

それでもなお、ここで生きいていくためには、自分を超えた永遠的なものを信じて、無になりきって行動していくことが必要だった。それがしんの自分を取りもどすという回復でもあるだろう。

光と影のはざまで、やまいの苦しさにあえぎながら、仲間たちと共にしたここでの生活を、いつかはなつかしく思い出す時もくるだろう。

その時のくることをいのりながら、今日一日をひたすらここにきるしかなかった。