東京

彼は私を下宿に招き入れて、相模原の報復にxx派を騙し討ちにしたことを打ち明けた。そして一文の書記長が逃げ遅れたxx派の女の子を鉄パイプで叩き続けたことを非難した。私も彼に同調した。

「そんな卑怯(ひきょう)なことをすれば、恨みを買うだけじゃないか」

言いながら、彼らが自分の弱さを(あなど)られることを恐れて叩き続け、人を死なせてしまう場面が頭に浮かんだ。

「次に起こるのはリンチ殺人だろう。僕も君もそれに加わらないだろうが、黙ってそれを見ていることになるだろう。しかし、それが問題なのだ。そんなことがW大で起こったなら、学生運動は崩壊してしまうだろう」

二人は酒を()みかわしながら、そんなことを言い合って深夜に及んだ。一泊して彼と別れたが、それが彼との今生(こんじょう)の別れとなった。

組織に帰ると、驚いたことに、私は批判されていた。一体誰がそんな工作をしたのだろう。やってきた一文の委員長は、私の信仰も実存もマルクス主義とは関係ないと言い放った。そして、先輩の一人は私のキリスト教を手ひどく批判した。私は彼らに反抗するつもりはなかった。

しかし、私には何がどうあろうと、信仰(実存)を捨てることなどできようはずがなかった。信ずることを失ったなら、戦うことも死ぬこともできなくなるだろう。

私は全学連の運動を自分の実存(信仰)に還元(かんげん)することなしにはなし得なかった。実存(信仰)という背骨を(くだ)かれれば、私は私でなくなるだろう。私は自分の立場を否定されて、困惑したまま追い詰められていった。それにしても、私は懸命に戦ってきた。なぜ、血を流して戦った私を、戦わずに逃げた彼らが、否定しようというのだろう。

私は一文の副委員長がやられている仲間に背を向けて、(うつむ)いて逃げ出そうとしている姿を、まざまざと思い出した。一体誰が戦ったというのだろう。私が身を引いたなら、この組織は壊れてしまうような気がしたが、それも思い過ごしだろうと思うより他なかった。