この頃、来栖は関心を呼び覚まされた女性については、その容貌やスタイルが自分に気に入っているかどうかと判断するところからつき合いを始めるというようなことはしないようになっていた。

相手が醸し出す雰囲気というかそのような気分にかかわる状況によってさらにつき合っていくかとか、この女ならば、これからのめり込んでいってしまいそうだといった風に、それから先のつき合いはその都度必要に応じて決めていけば良いとするところがあった。もちろん相手の雰囲気にとらわれるところが何もなければ、その場で一回限りの他愛のない話を交え、あとは没交渉ということになる。

この時の来栖は恭子に対してとってつけたような近寄り方をしているなと自身でも気づいていたのだが、恭子のほうは言葉数は少ないが丁寧に応対してくれている。そのように受けとめた彼は今日限りではなく、これからも彼女とつき合っていきたいと考え始めた。

展示会での出会いからホテルのラウンジでの食事まで、恭子は時間に余裕のある態度を見せていたが、夕食を食べ終わった時からほどなくして「そろそろ家に帰らないと。面倒をみてくれてるベビーシッターの子が子供と一緒に帰ってくるまでに家にいてあげなければ」と言ってから腰を上げ、いともあっさりと帰っていった。

恭子とつき合い始めたこの頃には、来栖は女性とのつき合いというものは一般的にこのように会って食事とよもやま話で楽しい共有の数時間を過ごしてからお別れし、それぞれ家路につくという、単純な繰り返しだと思い始めていた。女性とはこのようなつき合いで満ち足りており、むしろ精神的、肉体的なエネルギーは生きがいのある仕事のほうに集中して向けるべき、との判断である。

ところが先の成り行きは読めないもので、恭子とは再会後一カ月も経ないうちに親密なつき合いをするようになっていた。