第一章

週末、学生自治会主催の新入生歓迎オリエンテーションに、みどりと一緒に参加した。会場は大学からバスに乗って小一時間ほどの、枝垂桜が有名なお寺だった。晴れた空を背景にたっぷりと垂れた枝が薄いピンク色に霞んでいる。八十人ほどいる人文学科の新入生が、畳敷きの広い部屋に一斉に集う。あちこちで新しい友情の輪が生まれている。

小心者で積極性に欠ける私も、みどりのおかげで友だちが増えた。あけっぴろげで姉御肌の智美は女子のリーダーになりそう。智美と仲良しの依子は口数は少ないけれど、どことなく雰囲気のある子で、同性から見ても魅力的だ。二人とも、ファッション誌から抜け出してきたようなおしゃれな服を着ている。智美は『CanCam』、依子は『Olive』という感じだ。

中に、周囲の注目を集める男の子の一団がある。

「ねえ、あれ見て。あの子、赤い靴下履いてる」

みどりも気になったらしい。

「ほんとだ。あれは目立つね」

「赤だよ、赤。ぜったいヤンキーだって」

みどりはケラケラ笑っている。

枝垂桜の影が障子に映っている。庭で見た桜とはまた違って、こうして障子に映る姿は美しい墨絵のようだ。薄暗い室内では、まだどことなく遠慮気味な学生たちの中で、赤い靴下の男の子の一団の笑い声が響く。プリントのシャツに薄いブルーのGパン。柔らかそうな薄茶色の髪。まだ話をしたこともないうちから、みどりにヤンキーと評された男の子。その後行われた自己紹介で私は彼の名前を知った。――柴田彬。この日の印象通り、彼らのグループは私たち一九八六年入学人文学部人文学科一組の中心的存在になっていった。

中でも柴田くんと梅原くんは目立つ存在だった。梅原くんは長い髪を後ろで一つに縛っていて、髪型からして異彩を放っている。二人とも浪人経験者だそうで、高校を卒業したばかりの私たちよりも経験値が高いようだ。聞こえてくる会話の端々に「悪いこと」をたくさん経験している雰囲気が漂っている。

智美と依子は女子の中でいわゆる「イケてる」存在として一目置かれている。その智美たちと柴田くんたちのグループはすぐに仲良くなった。空き時間や移動のときも一緒にいることが多い。クラスコンパや大学祭への出店など、クラスの企画はすべて彼らが仕切っていた。みどりと私も、智美と依子とのつながりで少しずつ彼らと話をするようになっていった。とはいえ、私にとって彼らはあまりにキラキラしていて気後れがする。誤解を恐れずに言ってしまえば、なんとなく「怖い」と感じる人たちだった。

※本記事は、2021年3月刊行の書籍『青の森に夢はたゆたう』(幻冬舎ルネッサンス新社)より一部を抜粋し、再編集したものです。