第一章

女子寮の門限は一応二十二時と決まっている。「一応」というのは、抜け道があるからだ。丸山寮は、それぞれ五階建ての男子寮と女子寮があって、間を大きな食堂がつなぐ構造になっている。女子寮の玄関は二十二時に施錠するが、食堂のサッシ扉の鍵が一箇所だけ二十四時間開いていて、いつでも出入りできる。門限を過ぎたら食堂を通って女子寮に入ることができるのだ。

自治寮だから大学側の管理人もいない。不用心といえば不用心だが、このルールがなければ女子寮生の多くは相当困ったことになっていただろう。そんな訳で、帰りが遅くなっても問題はないのだが、私はなるべく門限までに帰るようにしていた。あまり遅くなるとお風呂でシャワーのお湯が使えないし、翌日もきつい。何より、大学構内の奥まった場所に夜中一人で入っていくのが嫌だった。夜道が怖いというより、寂しいのだ。