序章

深藍から青藍へ、瑠璃色から群青色へ、さまざまなブルーが森を形作っている。森は一面に霧をまとい、深い静寂に沈んでいる。針葉樹の針先が柔らかに霧に溶け込む。二千枚のピースに切り取られた森が、今、一つの風景になって二人の前にあった。なかなか完成させられなかったジグソーパズルの最後の一ピースを、彼はおもむろに手に取った。

「一緒に嵌めようか」「うん」

華やかに笑って彼女が手を添える。二人の手が、最後に残った穴に近づく――。まるで一時停止ボタンを押したかのように、世界はそこで凍りついた。未完成のジグソーパズル。最後の一ピースが欠けてぽっかり穴が空いている。

――ああ、私はまた夢を見ていたのだ。優しい夢の中を漂う幸福から憂鬱な朝へと、意識が引き戻されていく。目を開けると部屋の天井が見えた。まだ朝が早いのだろう、青いカーテンを透かして差し込む光に天井も薄青く染まっている。

私はそこに、夢と同じ青い森の幻を見た。欠けたピースの暗い穴からとろりと赤い鮮血が流れ出す。かわたれどきの幻想は、切ない現実を映して痛みを連れてくる。あれはこの胸に刻まれた傷。あの日、互いの胸に刻んだ傷だ。二人で生きた証あかしの傷が、今も血を流し続ける。

――苦い陶酔。彼の傷は、今はもう小さくしぼんで、ほんのわずかな皮膚の染みとなっているだろう。そこに傷があったことさえ忘れているのだろう。そう思うことで、私はまた血を流す。

空気中の塵が、力を増してきた陽の光を浮かび上がらせて幻想の森を消し去っていく。私は一人、白く濁った朝の光の中に立つ。遠い昔の幻を胸の内に封じ込めて。