第一章

「寮ってどこにあるの?」

「テニスコート、分かる?」

「待って、地図見る」

みどりは配られたばかりの構内案内図を取り出した。地図上の学生寮はなかなか見つからない。じれったくなって横から手を出して指し示す。

「これがテニスコートで、寮はここ」

「えー、こんなとこにあるんだ。知らなかった」

「みどりは? アパート?」

「じゃなくて、一軒家を丸ごと貸してるとこなんだ」

「えっ、一軒家?」

「そこに三人で住んでて、家賃が一人一万円」

「えっ、安い!」

「でしょ?」

「そんなところがあるんだ」

学生アパートの相場は三〜五万円のはずだ。水道光熱費と食費を考えれば寮費の方が安いが、それでも家賃一万円は驚きの安さである。

「トミノのすぐ近くだよ」

「トミノって、スーパーだっけ?」

「そうそう。週末は卵三円」

「三円? 一個?」

「ううん。十個で」

「え、すごい安い」

「今度遊びに来なよ」

「うん、行く行く」

人懐こそうな笑顔と飾らない会話。何より距離感が気持ちいい。私はすぐにみどりが大好きになった。寮で同室の佳代子といい、みどりといい、入学早々に気の合う友だちができて良かった。女友だちが少ない私にしては上出来の大学生活のスタートである。

※本記事は、2021年3月刊行の書籍『青の森に夢はたゆたう』(幻冬舎メディアコンサルティング)より一部を抜粋し、再編集したものです。