高齢男性の幸福感が配偶者の存在に大きく左右されてしまうのは、加藤登紀子さんの言う「二つ目の生活力」のなさが大いに関係しているのだろうと思います。

高齢男性にとって配偶者は日々の生活を成り立たせる力そのもので、妻の死はそれを失うことに等しいのでしょう。妻を失って大きく落ち込む要因には、妻への悔恨の念のようなものもあるかもしれません。人生を自分のために捧げてくれた妻への恩返しができなかったことへの後悔です。

定年退職後に、高齢者住宅を買って住み替えたり、妻と海外旅行に出かけたりする男性の中には、「妻への罪滅ぼし」「これまでの恩返し」を動機としている人がかなりいます。

それでも、どれだけやっても妻に十分に罪滅ぼしや恩返しをできなかったという後悔がズシリとくる。妻を失って、初めてそんな気持ちになる人も少なくないはずです。

この表で、もう一つ興味深いのは、配偶者を除く同居家族の数。幸福感の高い男性は、同居家族二人と三人以上を合わせて三六%ですが、女性では一八%と男性の半分です。

つまり男性は親や子、孫なども同居しているほうが幸福感が高まるが、女性ではそうでもない。男性は家事などをしないから、賑やかなほうが楽しいと感じるが、女性は家族の人数が多いと家事などの負担が増えてしまって疲れるということでしょう。親の介護は妻が担うケースが多く、それが影響している可能性もあります。

このように見てきますと、高齢になると幸福感は上昇していきますが、あくまで平均的にはということであって、どのように暮らすか、精神的に成熟していけるかによっても違いますし、男女によっても幸福感が高まる要因は大きく異なることが分かります。