「やあ、お待たせしました」。顔いっぱいの笑みで改札口を出てきたM氏、続いて夫人が腰を二つに折るようにして現れた。「お久しぶりです」「いやいや、私たちも今着いたところです」。

「では行きましょう。仙川沿いの桜がよいそうだ。砧あたりまで歩いて、学校の方へ戻りましょう」と、M氏が歩き出した。最近ひざを痛めてステッキをついているM氏をかばうように、夫は肩を並べた。二人は幼馴染の親友である。二人の後に続いて、夫人と私も歩き出す。

今日は老夫婦二組のお花見である。ちょうど桜は満開で、ぽかぽかと暖かい。仙川沿いの道は、三々五々家族連れやお仲間同士がそぞろ歩き。ところどころのベンチでお弁当を広げている老夫婦や子供連れの家族がほほえましい。

四人は時々立ち止まって桜を見上げ、「きれいですね」を連発する。川をのぞいては流れを見ながら、女二人はおしゃべりに忙しい。「お義母さまは何歳になられましたか」と私。「九十三歳です。この頃ひどく忘れっぽくなりまして」とM夫人。普段は言えない姑の愚痴やら、それぞれの夫をちょっとまな板に載せたり。「前を行くふたりも、きっと私たちがお魚ね」と、二人で笑った。つい一週間前に生まれたというお孫さんの可愛さを語る夫人は、幸せそうに見えた。

(平成十六年)