これを聞いた2人は深くうなずいた。勉は生来の勉強嫌いもあって、小学校の頃から試験の直前にならないと勉強する気がしなかった。

大体、何のために勉強するのか、疑問に感じていたところもあった。小学校の頃、超名門と言われる私立中学を受験するために、塾に通っている奴が多くいた。

彼らにその目的を聞いた時の答えが、国の高級官僚や一流企業の重役・社長になって、裕福な生活がしたいというものだった。なかには、医者になりたいからという奴も数人いたが、その中の何人かは、金が儲かるからとはっきり言ってのけた。

勉は、そんなもののために勉強するのか、それで良いのかと疑問を持ち続けていた。ゼニ儲けや出世のためだけに勉強するのが不純に思われたのだ。

みんながゼニ儲けや出世のために勉強しているのだと思うと、特有のヘンテコリンな正義感のようなものが頭をもたげ、生来の勉強嫌いに加えて、余計に勉強する気にならなかった。

究極的には、過去の数人の偉人達のように、世のため人のために役立てるように、勉強すべきものだという意識を持っていたが、ただ目的が見つけられないでいた。

こんなことを人に言えば、成績の悪い奴の負け惜しみと思われるに違いないと思い、勉は単なる勉強嫌いや怠け者に甘んじていた。また、並の頭の自分が、少しぐらい勉強したところで、大成できるような自信もなかった。

いくら綺麗ごとを言っても、勉強しておかないと、どす黒い学歴社会の中で、将来、後悔するだろうということは、幼心にも薄々感じていた。

しかし、それを現実のものとして実感する未来は、まだ遠すぎた。

中間試験の結果は、言わずもがなだった。3人の中で総合点では宗の成績が一番良かった。

その次が勉だったが、一番勉強してなさそうな茂津と大差はなかった。茂津は教科の中では数学がそこそこで、語学関係はあまり良くなかった。茂津に、数学の成績が他の教科よりましな理由を聞くと、茂津はのうのうと言ってのけた。

「数学は授業を聞いていて、公式を憶えておけば、それほど勉強しなくても、ある程度の点数は取れるものなんだ、ある程度のな。その点、英語はまず単語が分からなかったら話にならないだろ。

まず、単語ありきで英作文も和訳も答えることができるんだ。努力して単語を憶えなきゃ良い点は取れないよ。逆に言えば、少しぐらい頭が悪くても、勉強しさえすれば、英語はそこそこの点数がとれるんだ。中学の時、他の教科は全くダメだが、英語だけは得意なんだと言って威張る奴がいたが、そいつは、自分はあまり頭が良くないと言っているようなもんだぜ」

勉は例によってムカッときたが、茂津の言うことは間違いとは言えないし、勉強しない割には、そこそこの成績を出す頭の良さを、認めざるを得なかった。しかし、宗は真顔になって、やや怒りを込めて聞いた。

「お前は勉強すること、努力することを馬鹿にしてるんか?」

宗はコツコツと勉強するタイプなので気にさわったのだろう。