第一章 3人の出会い

徐々に2人と馴染んできたある日のこと、昼休みに宗は真剣な顔で勉に話しかけてきた。

「別当君、どう思う? このあいだの学年主任の水田の話や。アイツは教師失格というよりは、太宰治やで!」

勉がいぶかしげに聞いた。

「太宰治てどういうことや?」

「教養のない奴だなあ」

側にいた茂津が口をはさんだ。

「”人間失格”と言ってんだよ」

「なんやん。君が洒落や冗談を言うように見えんから、気が付かんかったんや」

「そら、僕でも、洒落の一つぐらいは言うで」

と言うと、宗はまくしたてるように話しだした。

「入学したての、多少なりとも学校や教師に期待している生徒を前にしてやで、お前らには優れた者は誰もいないと断言するとは何事やねん! 生徒に知識や技術を教えるだけやなしに、生徒を励まし育ててやるのが教師たるもんやないんか?」

「その通りや! 僕も思っとったんや!」

勉があいづちを打つと、宗はここぞとばかりに話を続けた。

「入学早々で一人一人の生徒のことも十分分かってもいいひんくせに。400人の生徒がおってやで、全部が全部アホばかりということはないと思うんや。やる気をなくしたで。水田が言う”優れた者”は、試験の成績の良い奴のことを指してるんやろと思う。

確かに、この高校は世間一般の言う一流校やないかもしれんから、成績の良い者は確かに多くはないやろ。けど、よほどのアホでない限り、学習塾に通って試験テクニックの訓練を受けて、頭にギュウギュウと詰め込まれてみいや、成績が上がるのは当たり前やろ。

勉強せえへんのは良うないかもしらんけど、そこそこ頭は良いのに勉強せえへんから、成績の良うない奴もいる。小学校の時に、学校から帰って家で1日8時間以上勉強する奴がいて、そいつは有名私立中学に合格したけど、こいつは頭脳明晰かどうかは疑問やと思った。

本当に頭のいい奴なら、1日に8時間以上も勉強する必要がないはずやないか。ごく普通の頭しかないから、1日に8時間以上も勉強せんとあかんかったんかもしれんやろ。一時的というか限定的な成績の結果だけで、能力のあるなしを単純に判断するのは、おかしいんと違うんか。

そやけど、1日に8時間以上も勉強せんと合格できなかった奴を、軽蔑するわけではないんや。そんな努力ができるのも能力の一つで、立派やと思う。合格したことを威張ったりせんかったしな。

とにかくや、水田は成績と能力の違いが分からんアホンダラや。成績が悪いから能力がない、頭が悪いとは単純には言えんはずや。生徒に勉強することの意義を説いて、能力を引き出すのが教師の本分やろ。教師の本分も分からず、上っ面しか見れん、水田のような教師ばかりでないことを祈るで」

「全くの同感や。君の思ったことと同じことを思っとったんや。水田はほんまにエゲツナイことを言いよったで」

これを聞いていた茂津は、ニヤッと笑みを浮かべて、

「頭脳明晰でも勉強嫌いが災いして、この高校に来た奴もいるよなあ~」

と言って続けた。