地図

 

鶯の鳴く道

あくる日、朝早くから支度をして、百合と聡順は家を出た。百合は髪を結い上げて、少し長めのきれいな赤い絣(かすり)の着物を着、手甲脚絆をつけ、流石に今日は歩きやすいように草鞋(わらじ)を履いている。

二人を、深雪だけでなく綾菜も聡太朗も見送った。初夏の日の出は早く、もう明るくなっている。

「百合、木村家の皆様にはくれぐれも失礼のないよう、お行儀良くするのですよ。道中気をつけて」

「うむ、心配するな。では行ってくる」

聡順はそう言うと、二人は黙って歩き出した。今日は百合も神妙に、大人しく歩いている。

「父上、木村の伯従父(おじ)上のお家は、遠いのですか」

「うむ、四里あまりかな。ゆっくり行く故昼頃には着くであろう」

「四里なら、大丈夫楽に歩けます。ゆっくりでなくても平気です。権爺と薬草を取りに山に行く時は、もっともっと歩きますが、百合は平気ですから」

「ほう、百合は権爺と一緒に山に行くのか」
 

「はい、連れて行ってくれる時はいつも行きます。時々私の方が早く薬草を見つけたり出来ます」

「それは初耳だな」

聡順は、百合に甘い人物がここにもいたなと苦笑した。二人がちょうどお堀にかかった橋を渡っている時、聡順の知り合いに出会った。丁寧に挨拶を交わすと、相手が話しかけてきた。

「朝早くから、お出かけですかな」

「うむ、これは下の娘でな。大層なお転婆故、暫く親戚の家に行儀見習いに出そうと思うてな。ちょうどこれから連れて行くところです」

聡順は聞かれもしないのに、わざわざそう説明した。

「それは難儀なことで。このようにお可愛らしいに、お転婆でいらっしゃるか。わはは」

「では急ぎますので」

「お気をつけて」

「失礼致します」

二人は市中を抜けるまでに、もう一人知り合いに会い、聡順は同じことを話した。今までにも患家などで何人かに吹聴(ふいちょう)しているので、そのうち自然と百合に関する噂が広まるであろうと思っている。

二人は市中を抜け、神通川を渡る有名な船橋(ふなはし)(船を横に何艘も並べて浮かべ、その上に板を渡して歩けるようにした橋)を渡ると、四半時(しはんどき)(約三十分)も行かないうちに野中ののんびりした道をたどりだした。