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鶯の鳴く道

門は開いており、飛び石伝いに歩いて行くと玄関にたどり着いた。聡順が大声で訪うと、木村智則本人がやあやあと出迎えた。

「よく来たな聡順。元気そうで何より。ご家族は皆息災か」

「ありがとう、皆元気です。この度は厄介なお願いをお聞き頂き、誠にかたじけない」

「堅苦しい挨拶は抜きじゃ。なあに、こちらは別に何をするものでもない。厄介なことなど何もないわ。とりあえず中に入れ。暑かったろう。おおこれが話していた百合か。なかなか可愛らしい娘ではないか」

「見てくれはな。百合、こちらが木村の伯従父だ。ご挨拶しなさい」

「お初にお目にかかります。百合と申します。この度はお世話になります」

百合は丁寧に挨拶した。

「なかなかしっかりしている。遠くて疲れたろう、ゆるりと休まれるが良い」

三人はぞろぞろと家の中に入った。そこでは智則の妻美沙が昼の膳の用意をしていた。

「まあまあ、遠くから良くいらっしゃいました。百合さん、疲れたでしょう」

「大丈夫です」

百合は大人しく答えながら、座敷に並んでいるご馳走を眺めて、あんなに沢山おにぎりを食べなければよかったとちょっと後悔した。

「実は来る途中腹が減ったと言うので、深雪の作ってくれた弁当を食べてきてな。今はそれほど腹は減っておらん。特に百合はあまり食べられないだろう。何しろ大きなおにぎりを三つも平らげたのでな」

父が気を利かせて弁解してくれたので、百合は助かった。

「では百合さんの分は、あとで食べられるようにとっておきましょうね。うちの子たちも、もうお昼は済ませているので、暫く一緒に遊んでいらっしゃい」

伯従母は屈託なく、百合を庭の一角に固まっている子供たちの所へ連れて行った。あとに残った聡順と智則は、ではゆるりと積もる話でもと、早速酒を酌み交わしはじめた。

伯従母は子供たちに、

「こちらが百合さんです。明日まで家に泊まるのですから、仲良くするのですよ」

と言うと、家の方へ早々に戻って行った。あとに残った百合とこの家の子供たちは、しばしじっとお互いを見つめ合った。

「お前だろう、男になりたいなんぞと言っている奴は」

一番年上の男の子が言った。次男の智明である。見たところ聡太朗と同い年か少し下のようだ。

「何でそんなことしたいんだ」

「私は、学問と剣を習いたいのです」

百合は臆する気配もなく言った。

「女のくせに生意気だぞ」

こう言ったのは三男の智久である。これは百合より少し下のようだった。実際この家の子供たちは判で押したように二歳違いの階段状に年齢がつながっていた。次男智明は十三歳。長女千春が十一歳、三男智久は九歳、次女千鶴が七歳である。一番下は末っ子の智家でこれは五歳であった。