そこここで、鶯(うぐいす)が盛んに鳴いている。田んぼには青々と稲が育っていた。富山藩は石高も少なく、耕地も少ないが、二代目藩主正甫(まさとし)の代になってから、開墾を奨励し、少しずつ田畑も増えているようであった。

漸(ようや)く二人はほっとし、百合も持ち前の元気を取り戻して、ちょうちょを追いかけたり、道端の花を摘んだり、父の傍らを前になったり後ろになったりしながらぴょんぴょん走り回っている。

「これ百合、そんなに飛び跳ねていては、向こうに着く前に疲れてしまうぞ」

「大丈夫です。百合はこのぐらいでは疲れません」

誠にその通りであった。歩けど歩けどさっぱり疲れたとは言わない。時々喉が渇いたと、竹筒の中のお水をもらって飲んだりしているが、それ以外は止まって休むということもしない。確かに体力だけは男並みだな、と聡順は心の中で舌を巻いた。昼にはまだ間が有りそうだというのに、二人は早々と八尾のすぐ近くまで来てしまった。

「百合、腹は減っていないか。母上がお弁当を持たせてくれたが、これでは食べる前に木村殿の家に着いてしまう……」

「百合はいつでも食べられます。今朝は大層早くに朝餉(あさげ)を頂きましたので」

「ではこの辺りでお弁当を使うとしよう」

二人は道端の大きな石に腰かけて、それぞれ竹皮の包みを開いた。そこには大きなおにぎりが三つと沢庵が入っていた。

「父上はそれで足りるのですか」

「まあ向こうに着いたら、また何か出るであろうからな。それよりお前はそんなに沢山食べられるのか」

「はい、母上のおにぎりは大層おいしいですから」

「あきれた大食らいだな。ちっとも身につかないくせに」

父のからかいなど全く気にする風もなく、百合は二つ目のおにぎりに嬉しそうにかぶりついた。手渡された竹筒からお茶を飲みながら、百合は知りたかったことを父に尋ねた。

「木村の伯従父(おじ)上のお家にいる子供たちの名前は何というのですか」

「うむ、わしも全員の名前は覚えておらぬが、とりあえず子供は六人で、そのうちの智直は我が家にいるから、今日会えるのは五人だな。それに内弟子が二人おる。とにかく大勢だ。向こうで一晩厄介になる故、その間に名前は自分で聞いて覚えなさい。少なくとも、暫くは一緒に過ごしたことになっているのだから、家族を覚えていないのはこの先まずかろう」

「はい」

二人は弁当を食べ終わると、また歩き出し、程なくして木村家に着いた。

※本記事は、2021年2月刊行の書籍『遥かなる花』(幻冬舎ルネッサンス新社)より一部を抜粋し、再編集したものです。