福井藩医の娘が、藩の危機を回避すべく活躍する痛快時代小説
男子として育てられたお転婆な福井藩医の娘が、父の仇討ちと藩士の謀反制圧をともに果たす痛快時代小説。
江戸の藩主に謀反計画を伝えるため、追手とせめぎ合いつつ、険しい高山を越えていく主人公、百合。
百合を中心に、血気盛んな若い藩士たちが、長年培われてきたい親世代の英知と経験を学んで成長していくビルドゥングスロマン。
江戸藩主に謀反の計画を伝えるため、追手とせめぎ合いつつ、険しい高山を越えていくお転婆な福井藩医の娘、百合。男子として育てられた彼女は、父の仇討ちと藩士の謀反制圧を果たすことができるのか…。佐々木祐子氏の痛快時代小説『遥かなる花』(幻冬舎ルネッサンス新社)より一部を抜粋し、紹介します。
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七 論語事始め
あくる日、百合は初めての雪斎先生の講義に出かけた。百合と同い年ぐらいの少年二人と一緒だった。いざ始めてみると、雪斎先生の話はとても分かりやすく、また論語の内容に沿った面白い話なども交えて具体的な説明も丁寧にして下さるので、とても楽しかった。
一刻の後、学問所を辞去すると百合は真っ直ぐ家に帰り、綾菜の寝ている離れの部屋の廊下から声をかけた。
「姉上、いま雪斎先生の所から、帰ってまいりました」
「お帰りなさい、百合、初めての学問所はいかがでした」
「はい、とても面白かったです。今日は論語の最初の所を習ったのですが、先生が分かりやすく説明して下さいましたし、いろいろなお話も聞かせて下さいました」
「まあ、そう。羨ましいこと。もし暇があるなら、少しその面白い話など聞かせてもらえないかしら。こうして寝てばかりいると、とても退屈でたまりません。学問とはどのようなことを習うのか知りたいわ」
そこで百合はその日習った論語の一節から始めて、とうとうその日に習った講義の内容を残らず綾菜に話した。うろ覚えだとちゃんと話せないので、一生懸命思い出し、きちんと分かりやすく話すよう努めた。雪斎先生のして下さったとても面白い話のところでは、久しぶりに綾菜も笑顔を見せ、一度など何日ぶりかで笑い声をあげた。
「まあ百合、学問とは本当に面白いものなのですね。これからも何か新しい面白いことを習ったら、また聞かせに来て下さいね」
「勿論です。姉上。是非そうします。こうしてもう一度思い出してお話しすると、とても良いおさらいになりますし、私も姉上とお話しできて嬉しいです」
「ありがとう。さあもうあちらへいらっしゃい。お腹がすいたでしょう。もうお昼を過ぎていますよ」
「はい、ではまた来ます」
【登場人物】
小幡百合 小幡家の末娘。明るくて元気で知りたがり屋。物凄いお転婆。
小幡聡順 百合の父。富山藩の藩医。医学・本草学に造詣が深く、藩主も頼りにするほど。
小幡深雪 百合の母。聡順の妻。
小幡綾菜 百合の姉。体が弱いが美しく優しい。百合のよき理解者。
小幡聡太朗 百合の兄。小幡家の跡取り。
藤堂健之助 聡順の親友。剣道場徳明館の主。
藤堂健一郎 健之助の長男。綾菜の許嫁。
藤堂健吾 健之助の次男。聡太朗の親友。
藤堂静江 健之助の妻。
権爺 もと杣人足の頭。今は小幡家で薬園の世話をしている。
志乃 権爺の孫。
木村智則 小幡聡順の従兄。八尾で開業している医師。
木村智直 木村家の長男。小幡家で内弟子として研鑽に励んでいる。
佐々木高悦 小幡深雪の兄。加賀藩の御殿医。
佐々木高琳 高悦の長男。
井上陽堂 小幡家の内弟子。聡順の代脈を務める。
小池新之丞 藩の組頭小池新左衛門の長男。若い連中の集まりの首謀者。剣の使い手。
田口康成 新之丞の従弟。父は小池新左衛門の弟田口新之輔。
橘主膳 勘定方の河川改修の部署に務める。
橘膳次 橘主膳の次男。新之丞の仲間。
三宅慶三郎 藩の目付三宅慶衛門の三男。新之丞の仲間。
佐藤栄二郎 藩の奉行佐藤栄蔵の次男。新之丞の仲間。
うめ 小幡家の女中。
佐枝 小幡家の女中。
とよ 小幡家の女中。
良吉 小幡家の下男。
左平 立山堂の板橋支店の支配人。