邂逅─緋色を背景にする女の肖像

エリザベスにとっては、フェラーラが描いた実物の絵との初対面である。

緊張感からだろうか、無言でその前に佇み、食い入るような眼差しで絵に見入っている。五十号だからさほど大きな絵ではないのだが、見付け幅四十センチメートルもある特殊なデザインの額縁に入れられているため、全体では二畳近い大きさになっている。

おまけに金色の装飾で彫り込まれた枠は、緋色の背景の絵をさらに誇張させて浮き上がらせている。

通常これほど大袈裟で変則的な額装はしないものだが、この絵の価値を最大限に引き出そうとするコジモのアイデアには感心させられた。

宗像にとっては、カジノ・エストリルにあった男爵のサロン以来、二度目の対面である。

「エリザベスさん、フェラーラの絵はいかがですか?」

「そうですね、一九六〇年代では、なかなか評価されなかったことが分かるような気がします。でも著名な美術評論家が、一言素晴らしいと言えば、瞬時にそちらへ靡くような不思議な可能性を持っている絵ですね。

確かに見かけで判断すればラファエル前派風なのですが、でも少し違った印象がいたします。フェラーラの絵はいつも硬質で理知的なものを感じさせますから。背景に薄らと浮かび上がる抑揚のある表現によって、秩序ある構成を感じます。

複数の要素がコラージュ風に重なって全体をメタモルフォーゼさせているのもユニークです。それに、背景の赤色も画家が好んで使う赤とは少し違うようですしね。いかがでしょうか?」

「さすがはエリザベスさん、鋭い観察眼です」

エリザベスが宗像とほとんど同じ評価を下したので大いに驚いた。

「それと絵の中のモデル……。確かに美しいことには違いありません。でもその顔から受ける審美的な印象の裏側に、少し違和感のある影のようなものを感じるのは私だけでしょうか? 特に瞳の描き方でそう感じるのです。

例えば強い気迫の気性と形容すれば……。いえ、それとも少し違いますね。そうだわ、一種の冷たさ……。例えばわずかにこの唇の端に感ずる気配でしょうか?

実は、宗像さんからフェラーラの家族写真を見せられたとき、そのような印象を受けたのですが、この絵からはさらに強い印象を……」