邂逅─緋色を背景にする女の肖像

「これでは残すところリスボンへ行くしかなさそうです。ここはこのくらいにしましょう」

「ええ、そうしましょう。コジモ・エステさん、長い話をお聞かせいただきました。おそらく、またあらためてお会いすることになるでしょう。私にとっては、このようにお聞きしてもいまだ全てが明らかになったとは思われません。今後なんらかの方法でさらに詳細を確認しなければならないと思っています」

コジモ・エステはエリザベスの顔を見ながら何度も眉を上下させ、必死になって最後の言い訳をした。

「いえ、いえ、お嬢さま。何もお構いできませんでした。ただ、ただ、ひとつ、誤解なさらぬように! 私は私利私欲のために〝あれ〟を、お膳立てしたわけではありません。

先ずもって、私が初めてフェラーラの才能を認めたことを、どうぞお忘れにならないように。それに、私財を提供してお世話もした。もし〝あれ〟がなければ、たとえ数年だったとはいえ、フェラーラの評価もあり得なかったのです。もちろん、私の会社も存続したかどうか?私だっていまごろになってこんなことを表に出されたら困るのですよ。全てが無に帰してしまう」

「もうその話は終わりにしましょう。まだ全てが明らかになっているわけではありませんが、今日のところはこれでおいとまさせて頂きますわ」

最後まで弁解に終始するコジモに対し、エリザベスは身体の芯から湧き起こる憤りをじっと抑えた。